ECM新時代を告げる重要盤。
中心にはまたしてもトーマス・モーガンが!
キース・ジャレット・トリオ、ブラッド・メルドー・トリオ、フレッド・ハーシュ・トリオをわたしたちはちゃんと射程に入れてますよ、という彼らのときめくような入りの鳴り、堂々とした余裕、宣言。“ピアノ・ソロの革命がふたたびECMから”と言うべき『Avenging Angel』(2011年)をリリースしたクレイグ・テイボーンの待望のピアノ・トリオが届いた。テイボーンはクリス・ポッター・アンダーグラウンドの凶暴なフェンダー・ローズ奏者であるとか、デトロイト・テクノのカール・クレイグとインナーゾーン・オーケストラのサウンドを担ったとか、ロスコー・ミッチェルのバンドで弾いていて観客から同じだと指摘されたデスメタルバンドGorgutsに接触し翌年にはそのギタリストとツアーをしたとか、テイボーンの経歴を知るとジャズはつねに外部によって活性し続けていることに思い至る。しかしてECMは、この春ベースのトーマス・モーガンを据えた新譜を3種4CD分をリリースしてきた。このトリオと、Tomasz Stanko New York Quartet『Wislawa』(2CD)とGiovanni Guidi Trio『City Of Broken Dreams』だ。法王ポール・モチアンの働きかけで世に出た菊地雅章『サンライズ』、ペトラ・ヘイデンをヴォーカルにしたモチアンの白鳥の歌と言える『ザ・ウィンドミルズ・オブ・ユア・マインド』、昨年ブルーノート東京で凱旋公演をしたTPTトリオでの演奏……ジャズ界はゲイリー・ピーコックを手に入れた? いや、ちがう、このベースの恐ろしい能力、反応が良くて同時に的確に鳴らしている、というのでない、同時どころか先行している、光速を超えている?……スコット・ラファロか!……まさにモチアンの衣鉢はこのベーシストに継がれていたのか。この『Chants』、積み上げる響きに新時代を告げるピアノが疾走し、デジタルなセンシビティに舞うタイコ、真に畏怖すべきはこのベースだろう。ジャズ史の潮目の変化をいよいよECMが痛快にドキュメントし始めた。