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Rokia Traoré『Beautiful Africa』

カテゴリ
o-cha-no-ma LONG REVIEW
公開
2013/07/16   16:00
ソース
intoxicate vol.104(2013年6月20日発行号)
テキスト
text:篠原裕治

マリの誇り。アフリカの矜持。アフリカン・ポップスの更新はいつもロキアから!

1990年代末、西アフリカ音楽における新世代の旗手としてデビューしたロキア・トラオレ。当時エレクトロニックなアフリカン・ポップスが幅をきかせる中、伝統に根差しながらも新しさを感じさせるアコースティックなそのサウンドは本当に鮮烈だった。

個人的には1作目と2作目をもっとも愛聴した。西欧のマーケットではそのあともアルバムを出すたびに絶賛されているが、正直に言って、最近の作品には不満も感じていた。前作の『チャマンチェ』(2009年)もクオリティの高さは認めるが、彼女の知的な要素が前面に出すぎているというか、あまりにもデリケートに作られている気がして、以前のようには入れ込めなかった。こういう作風がヨーロッパあたりのファンや評論家筋に受けがいいのは何となくわかるのだが、もっと彼女本来の魅力が発揮された作品は作れないのだろうか、という思いが常にあった。

今回の新作のプロデューサーはPJ・ハーヴェイを手がけていることで知られるジョン・パリッシュだという情報が事前に流れていて、最初に知ったときは意外な人選だとも思ったが、ロキアとは相性がよさそうな気はしていた。本作のサウンドを聴くかぎり、この起用は成功と言っていいだろう。

前作で感じた内省的な雰囲気は抑えられ、躍動感は増した。メロディも基本的に西アフリカの特徴が生きた上質なものだし、バックのサウンドはロックぽいアンサンブルが付く曲も多いが、そこに伝統楽器のンゴーニや西アフリカ特有の女声コーラスが絡んでくるさじ加減も絶妙。アフリカらしさが減殺されていないあたり、なかなか計算されたプロダクションだ。

いわゆる売れ線に媚びることなく、アーティスティックな挑戦を続けながらアフリカ音楽という枠を超えてポピュラーな存在になれる可能性を秘めたミュージシャンは少ない。ロキア・トラオレは、その資質を有する数少ないひとりだということを改めて感じさせてくれる力作だと思う。

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