トラッドに吹く新しい風。
随所で繊細な音響感覚が光るノンサッチ移籍作。
サム・アミドンの歌はトラディショナルで新しい。なんだか矛盾したような表現だが、アミドンはトラディショナルなスタイルを受け継ぎながら、ポスト・ロック以降の繊細な音響センスも持ち合わせていて、その歌にはモダンなフィーリングがある。フォーク・シンガーの両親のもとに生まれ、現在、NYシーンのキーパーソンともいえるキーボード奏者、ダヴマンことトーマス・バートレットと10代の頃からバンドを組んでいたことが、彼のユニークな音楽性を培ったのかもしれない。これまではアイスランドのレーベル、ベッドルーム・コミュニティに所属していたアミドンが、最近ではデヴェンドラ・バンハートの新作をリリースしたアメリカーナ・サウンドのパトロン的レーベル、ノンサッチに移籍して初めてリリースするのが本作だ。
プロデュースを担当したのは、ベテランのエンジニア、ジェリー・ボーイズ。アミドンは彼が70年代に手掛けたUKトラッドの重鎮、マーティン・カーシーの作品の飾り気のないクリアなサウンドに惹かれていたらしく、その想いは本作にしっかりと反映されている。さらにトーマス・バートレットが共同プロデュースに参加。ベテランと新鋭、両者とのコラボレーションがアミドンの個性を丁寧に引き出している。バンジョーやフィドル、ギター、ピアノなど、アコースティックな楽器の音色がくっきりと浮かび上がるなか、曲によってはギター・ノイズやムーグなどエレクトリックな響きが奥行きのあるサウンドスケープを生み出していく。なかでも印象的なのがゲストで参加したケニー・ホイーラーのトランペットで、まるでUKトラッドとECMが出会ったような研ぎ澄まされた美しさが生み出されている。また、オリジナル曲と変わらないほどのオリジナリティを誇るカヴァー曲もアミドンの魅力だ。今回も、古いカントリー・バラードや賛美歌、あるいはティム・マックグロウやマライア・キャリーのナンバーなど、その解釈は実にユニーク。精緻に作り込まれ、一音一音に手仕事の温もり感じさる本作は、まさに〈ノンサッチ(逸品)〉というレーベルにふさわしい仕上がりだ。