アメリカーナの化身。
7インチでリリースされていた前12曲をCD化。
イナラ・ジョージやクレア・マルダーらとの仕事で2000年以降のヴァン・ダイク・パークスは「バーバンク・サウンドの巨匠」以上のインパクトを持って若い世代に迎えられた。その波に乗ってヴァン・ダイクは6枚もの7インチ・シングルを2011年に次々発表。新作『ソングス・サイクルド』はそのシングルをまとめた作品だが、単なる編集盤にはとどまってはいない。
ヴァン・ダイクは一連のシングルジャケット用にエド・ルシェを始め著名な画家に作品を依頼しているが、本作のライナーにはその再録はもちろん、画家たち自身による回顧的な文章も掲載。音楽ディレクターとしても知られるスタンリー・ドーフマンに至っては、9ページにわたってその半生を語っている。スタンリーが南仏でピカソと握手しようがイギリスでヌレエフとケンカしようが、ヴァン・ダイクには本来何の関係もないはずなのにだ。
しかしそれこそ「ヴァン・ダイク・パークスの音楽」なのだろう。本作では得意のカリプソに聖歌、マダガスカル音楽まで取り入れ、加えて自らのナンバーの再演を披露。また音楽のみならずヴァン・ダイクと画家たちによるライナーによって、アメリカにとどまらない、しかし「アメリカ」としか言えない像をかたち作っていく。それらが織り成す空間はパースペクティヴ(遠近法)というより、規定のルールに縛られないシュルレアリスム絵画のような眩暈をもたらす。だからこそ9.11やハリケーン・カトリーナを歌う曲が、まるで古典悲劇の様相を示しもするのだ。
ヴァン・ダイクは現在のダウンロード文化を嫌っているようだが、本作からは似たような感触を得ないでもない。「ヴァン・ダイク・パークス」というひとりのアメリカ人を超えるスケールを持つ本作を聴く者は、それぞれ思い思いのアメリカ像を「ダウンロード」することができる。そしてそれこそが、ヴァン・ダイク・パークスという音楽家が一生をかけて行ってきたことなのだ。