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第47回――欽ちゃんファミリー

連載
その時 歴史は動いた
公開
2013/07/24   00:00
ソース
bounce 357号(2013年7月25日発行)
テキスト
文・ディスクガイド/桑原シロー


イモ欽トリオ_A



怪物番組「8時だョ!全員集合」の好敵手だったフジテレビ系の「欽ちゃんのドンとやってみよう!」が土曜から月曜の晩に移動し、「欽ドン!良い子悪い子普通の子」として再出発したのが81年春のこと。メイン司会は、数々の人気番組を生み出していた萩本欽一で、彼はこの番組からスターを世に出すことに成功します。それがヨシオ(山口良一)、ワルオ(西山浩司)、フツオ(長江健次)から成るイモ欽トリオ。当時大人気だった、田原俊彦に近藤真彦、野村義男のジャニーズ3人組・たのきんトリオにあやかって付けられたという名前からして、お笑い畑のパロディー的なユニットであるにもかかわらず、一時期は本家に迫るほどの人気を博します。その頃、ザ・ぼんちらを中心とした漫才ブームの真っ只中という追い風もあったものの、作曲・細野晴臣(〈イモ〉はYMOから採ったとか?)、作詞・松本隆による81年のデビュー曲 ハイスクールララバイ はミリオン・セールスを記録。学生服を着たお笑い系タレントが本物のアイドルになった〈その時〉、〈視聴率100%男〉という異名を取った欽ちゃんの番組は、ヒット・ソング製造工場としても稼働を開始するのです。

テレビ朝日系「欽ちゃんのどこまでやるの!?」からは、高部知子、倉沢淳美、高橋真美から成るわらべがデビュー。2作目の もしも明日が…。は84年の年間チャートでトップを獲得します。そしてTBS系「欽ちゃんの週刊欽曜日」からは、一世風靡セピアの母体である劇男零心会にいた風見慎吾が登場。吉田拓郎が手掛けたデビュー曲 僕笑っちゃいます で一世を風靡しました。

そんな〈欽ちゃんファミリー〉の人気者たちを顧みれば、男女問わず〈2.5枚目キャラ〉という設定が上手く働いていたことに気付きます。加えて、地方出身者で素朴な温かみを持ったキャラ作りも全国区の人気を得るうえでプラスに働いていたのは間違いなく、そのスタイルは88年にデビューするCHA-CHAまで継続されます。シブがき隊主演のドラマ「噂のポテトボーイ」でもモチーフとなった〈愛すべきイモっぽさ〉は、社会がバブル時代に向かってひた走っていた当時の日本に、安心感のようなものを与えていたのかもしれません。

このように、お茶の間に健やかな笑いを提供し、80年代に一時代を築いた欽ちゃんファミリー。彼らのヒット曲はどれもゴールデンタイムに相応しい朗らかさと爽やかさがあり、幅広い層に支持されました。そしてその垢抜けなさを隠し味にするといった欽ちゃん(とそのブレーン)が考え出したヒット曲誕生の方法論は、近年では「クイズ!ヘキサゴンII」から生まれた羞恥心などに見られたりと、現在も受け継がれているのです。

 

欽ちゃんファミリーのその時々



イモ欽トリオ 『ポテトボーイズ No.1』 フォーライフ(1981)

“ハイスクールララバイ”のヒットを受けて制作された初アルバム。吉田拓郎や南こうせつら豪華作家陣の参加が当時の勢いを物語っている。ニール・セダカ調“ハートブレイク・トレイン”など往年のアイドル・ソングっぽいものと、細野晴臣作のテクノ歌謡“失恋レッスン(A・B・C)”が混在しているあたりが実に80年代的。

 

山口良一 『ABOUT』 フォーライフ/UKERU MIRAI/OCTAVE(1981)

このたび奇跡のCD化が実現した、コステロをパロったジャケも麗しい、ヨシオのソロ作。JBばりにガナる“I Gatta Me”ほか、石田長生のアレンジが冴えるダンス・チューンのひしめくなか、プラスチックス参加のテクノ・ポップが妖しく光る。ボートラには、ニックじゃがあず“ヨロシク原宿”という凄まじいオマケも!

 

『ゴールデン☆ベスト 〜(欽)スーパーヒット〜』 フォーライフ

イモ欽トリオやわらべ、よめきんトリオなど、番組を越えて欽ちゃんファミリーの人気者の楽曲を集めたベスト盤。ピンクレディーのケイちゃんによるオリエンタル風味なバラード“女優”、振り付けのブレイクダンスがヤングの度肝を抜いた風見慎吾“涙のtake a chance”など、その内容は実にヴァラエティー豊か。

 

CHA-CHA 『ゴールデン☆ベスト CHA-CHA』 バップ

劇男一世風靡出身の勝俣州和、少年忍者の一員だった中村亘利らを擁したコント・アイドル・グループ(元メンバーには草彅剛、候補生には木村拓哉も)。コミカルさを前面に押し出したニュー・ジャック・スウィング風の“いわゆるひとつの誤解デス”などを聴けば、彼らがSMAPや関ジャニ∞の先駆的な存在だったことに気がつく。