アドリアン・フェロー、マーカス・ギルモアらを迎えた新グループ
無邪気に見えるほどの大胆さと軽やかさが計ったように完璧に機能してしまう、これこそ僕が待っていたチック・コリアだ。アドリアン・フェローによるフュージョンの香り高きエレキベースに、当代最先端マーカス・ギルモアのドラムを持ってくる。チック・コリアがエレピで遊び出せば、その横ではギターのチャールス・アルトゥーラが伸びやかなフレーズを奏でる。この組み合わせを決めた時点で、勝負はあったように思える。
スタンリー・クラークのグラミー受賞作においてインディーロックのような疾走感のあるリフであの作品の表情を格段に豊かにしていたギタリスト、アルトゥーラがここでは全く異なる表情を見せる。それどころか、曲ごとに変わる色彩を完璧に描き出す適応力、表現力さえ見せる。テイラー・アイグスティやアンブローズ・アキンムシーレとの新作も予定される新鋭の実力がようやく露わになったと言えるだろう。
そして、本作の価値を飛躍的に高めてしまったのが全編を貫くマーカスのドラムだろう。ヴィジェイ・アイヤーの傑作からギラッド・ヘクセルマン、そして近年のチックの活動における最重要ピースともなっているマーカスのドラムが本作に同時代性を与える。時に音を抜き、時に突然畳みかけ、シャープにグルーヴを削りだしていく。マーカスのドラムが、バンドのサウンドにくっきりとした輪郭を与えているようだ。
終盤ではラヴィ・コルトレーン、スタンリー・クラークを召喚した《Pledge For Peace》と、レギュラーメンバーでの《Legacy》の2曲を並べ、ティム・ガーランド、アドリアン・フェローがその突破力を高らかに誇示してみせる。
この一見畑違いの面々を束ね、輝かせてしまっている光景は実に壮観だ。その場限りのセッションでなく、録音物の中に異物をぶち込みクロスオーバーさせ、まとめてしまう“場”としてのチック・コリアの求心力に、ジャズ・ジャイアンツたる所以を見た。