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坂本真綾『はじまりの海』

公開
2013/09/06   13:37
ソース
intoxicate vol.105(2013年8月20日発行号)
テキスト
text:水上渉(渋谷店)

【坂本真綾×大貫妙子】
今、良質でスタンダードな日本のポップスはこんなところにあるのです。

デビュー時からの菅野よう子との組み合わせの印象が強い彼女だが、2000年代中盤からは様々なアーティストとのコラボを通じて、音楽の幅を広げて来た。そして今年3月には遂に自身が全ての作詞・作曲・プロデュースを手掛けたオリジナル・アルバム『シンガーソングライター』をリリース。デビュー15周年を経てなお、挑戦的な姿勢は変わらず、その創作意欲はますます盛んだ。そんな音楽活動の中に、近年〈ニュー・ミュージック~シティ・ポップ〉のキーワードが加わった。2010年のシングルではシュガー・ベイブの 《DOWN TOWN》、荒井由実の《やさしさに包まれたなら》をカヴァー。(このシングルにはザ・フォーク・クルセダーズの《悲しくてやりきれない》のカヴァーも収録)前者は35人編成のビッグバンドのアレンジ、後者はギター・デュオDEPAPEPEの演奏による爽やかなアコースティック・ナンバーに仕上がっている。楽曲の持つ魅力をさらに引き出すアレンジの妙。それは2011年の冨田ラボとの互いの参加作品にも感じられ、こちらも繊細で流麗な職人技が見事である。

最新シングル「はじまりの海」はTVアニメ『たまゆら』続編のOP曲。前回は松任谷由実の書き下ろし曲だったが、今回は大貫妙子(そう元シュガー・ベイブ!)の作詞・作曲による新曲。ター坊とまあやの相性の良さが思った以上で、二人の「らしさ」が心地良いハーモニーを奏でている。ゆったりとしたテンポで綴るうららかな日々のように、聴いている人を優しい気持ちにしてくれる。それは何年経っても変わらない、そんなスタンダードな感触だ。前回の松任谷曲を笹子重治が編曲したアコースティック・ヴァージョンと10分を超えるライヴ・メドレーも収録しており、ミニアルバム並みのお得感がある。80年代の雰囲気は曲だけでなく、ジャケットにも漂っている。8歳から芸能活動を始めた彼女。一人で電車に乗って仕事場へ通う時に、ウォークマンを聴いていたそうだ。(ベスト・テープを作って、カセットのインレイにはレタリング・シート(!)を使用とのこと)よって坂本真綾は「ウォークマン」世代!

さて『たまゆら』について補足しよう。監督の佐藤順一はアニメの所謂劇伴作家だけでなく、外部の音楽家を起用することも多い。たとえばショーロクラブと妹尾武が音楽を手掛けた『ARIA』、村松健による『うみものがたり』などがそうだ。そしてこの『たまゆら』では音楽に中島ノブユキを起用している。瀬戸内の美しい風景と心躍る音楽、そしてハートフルな物語が楽しめる名作だ。

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