異空間へと誘う観客体験型アートパフォーマンス!
足を踏み入れた瞬間から時空を超えたストーリーが始まる──
「5・18光州民主化運動」をご存知ですか。1979年10月、朴正熙大統領の暗殺事件後、韓国は独裁政権に民主化を求める政治闘争が全国へと広がっていきました。全羅南道の道庁所在地・光州でも、1980年5月18日から27日にかけて民主化を求める活動家とそれを支持する市民や学生が韓国軍と衝突し、多数の死傷者を出しました。この「5・18光州民主化運動」を縦糸に、今まさに私たちが生きているこの世界と私たち自身が横糸を紡ぎ、観客それぞれのタペストリーを織り上げていくのが、日本と韓国そしてイギリスの共同制作による『ONE DAY, MAYBE いつか、きっと』です。
この9月、高知県立美術館、金沢21世紀美術館シアター21・タテマチストリートでの公演に先立ち、2015年開館予定の「アジアン・カルチャー・コンプレックス」プレ・プロジェクトとして光州で初演されました。会場は光州民主化運動の現場でもあった旧光州女子高等学校。図書館に集まった観客は、いつもの観劇とは異なる雰囲気のなか、どこで何を見るのか、これから何が始まるのかと期待と不安に包まれていました。老婆とパフォーマーに導かれるように校内を移動しながら、私たちは消費社会を謳歌する自身の姿とその影に潜む社会の一面を、警察署の取調室では動物園の動物でも見るように現代犯罪のサンプリングを、過去なのか未来なのか薄暗く不気味な小部屋が続く廊下を、死者を慰める祭祀を、これら虚構をパフォーマーとともに虚構であると同時に現在進行形の時間として生きる体験をすることになりました。芸術監督トリスタン・シャープスは、“自由に感じることを楽しんでもらいたい。大切なのは観客が自分で感じること。僕が望むのは、この作品が観客の感情に何かしらの変化をもたらすこと。観終わったあと、日常を見る目が少しでも変わっていたら嬉しい”と話しています。公演の最後、数百個のろうそくが灯る講堂で、私たちはそれぞれ体験した時間を、感じ、考え、私だけのタペストリーを完成させることになります。
私は講堂の小さなろうそくの灯りの間を漂う人々の姿を見ながら、アルフォンソ・リンギスの“私たちと何も共有するものもない—人種的つながりも、言語も、宗教も、経済的な利害関係もない—人びとの死が、私たちと関係しているのではないか?”(『何も共有していない者たちの共同体』より)という言葉を思い出しました。5・18光州民主化運動は韓国現代史の痛みでありながら、実は今エジプトやシリアなど中東で起きていること、3・11以降日本で起きていること、私たちが属する社会やコミュニティー、日常で起きていることなのです。だとしたら、同時代をともに生きている私に何ができるのでしょう。リンギスは“人は、隣のベッドで、あるいは隣の病室で、まったく知らない人が孤独に死につつあるときにも、そこに居つづけようとするのだ”と語り、死の前でこの居つづけることこそが何も共有しない私たちに共同体を誕生させると独自の共同体論を展開しました。公演の最後に芸術監督トリスタン・シャープスが設定したのは、まさにこの共同体の誕生でした。私のタペストリーにはこの儚くも希望を感じる共同体が描かれていました。
また、この作品は、日本と韓国という歴史的な痛みを抱え、現在も解決できずにいる私たちが、イギリスのドリームシンクスピークという媒介を得て、世界へと発信する作品でもあります。私たちだからこそ、過去の痛みは同時代の痛みでもあることを語り、世界と寄り添うことができるのではないか。そんな思いを抱きながら旧光州女子高等学校を後にしました。
今も人々の中に、街の中に癒しがたい傷を残す「光州」から日本の「高知」「金沢」へと移動し、『ONE DAY, MAYBE いつか、きっと』はどんな作品となるのでしょう。現場性・歴史性という地の力から離れることで、さらなる普遍性と同時性をもって私たちに多くのことを語りかけるでしょう。同時に、私たちが生きる日本の、世界の在りようを考えさせてくれることでしょう。皆さんは皆さんの想像力と創造力、記憶、思考、視点で、どんなタペストリーを織りあげるのでしょうか。‘いつか、きっと…’の後にどんな言葉をつなげますか。
『ONE DAY, MAYBE いつか、きっと』という「私」と「私を取り巻く世界」を発見する知的体験を楽しんでください。
EVENT INFORMATION
日韓英国際共同製作
『ONE DAY, MAYBE いつか、きっと』
●11/2(土)ー11/9(土)全10回公演 [11/4(月)休演]
会場:高知県立美術館
●11/28(木)ー12/8(日)全13回公演[12/3(火)休演]
会場:金沢21世紀美術館 シアター21、タテマチストリート
作・演出:ドリームシンクスピーク(アジアン・カルチャー・コンプレックス、高知県立美術館、金沢21世紀美術館 委嘱作品)
企画制作:Institute of Asian Cultural Development、高知県立美術館、金沢21世紀美術館、アジアナウ、ドリームシンクスピーク
主催:高知県立美術館、金沢21世紀美術館[(公財)金沢芸術創造財団]、アジアン・カルチャー・コンプレックス
芸術監督:トリスタン・シャープス
作曲:チャン・ヨンギュ
ドラマトゥルグ:キム・アリサ
映像編集:ケビン・クラーク
http://onedaymaybe-jp.com/