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Robert Glasper Experiment『ブラック・レディオ2』

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o-cha-no-ma LONG REVIEW
公開
2013/10/25   10:00
ソース
intoxicate vol.106(2013年10月10日発行号)
テキスト
text : 柳樂光隆


ジャズ/ブラックミュージックの再連帯へ。黒いラジオは世界を変えるか?

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世界を驚かせた『ブラック・レディオ』の続編がリリースされた。更に豪華なゲストシンガー/ラッパーを迎え、ドラマーがクリス・デイヴから近年のツアーにも同行していたマーク・コレンバーグに代わった。前作よりも、アレンジの幅が広がっただけでなく、演奏もより自由になっている。特にマークの「動」のドラムとデリック・ホッジの「静」のベースのコンビが、ジャズ×ヒップホップのビートの生演奏化というようなイメージを完全に乗り越えたことで、ロバート・グラスパー・エクスペリメントは更なる高みへと到達している。スネアとハイハットで時間を微塵に切り裂き、歌ものに対するビートという概念をクールに突き破ろうとするマークの野心に僕はエクスペリメントの本質を見る。「メンバーに何かを求めたことは無い。いつも彼らからは考えてもいなかったような結果が返ってくる、そんな偶発性こそが自分が考える美しさ、それこそがエクスペリメンタルなんだ」というグラスパーの言葉もリアリティを持つだろう。そして、それこそがジャズだ。

今作には明確に大きなテーマがある。レイラ・ハサウェイとの《神の子供たち》はスティーヴィー・ワンダーのカヴァー曲だが、これは昨年アメリカで起きたサンディフック小学校銃乱射事件への哀悼を込めたものだ。終盤ではレイラの歌と共に俳優で詩人のマルコム=ジャマール・ワーナーのメッセージが語られる。レイラと行った今年の来日公演では、この曲でグラスパーがパイプオルガンのような音をシンセサイザーで奏でてゴスペルのような荘厳さを演出した。敬虔な気持ちさえも喚起させる《トラスト》や、ゴスペルライクな《イェット・トゥ・ファインド》、スヌープがじっくりと語りかける《パーサヴィア》は、その《神の子供たち》とどこか同じ空気を纏っている。そして《アイ・スタンド・アローン》のリリックも同じく《神の子供たち》に通じている。悲しみ、怒り、祈り、忍耐、信頼、そしてそこからの再生。グラスパーのラジオはアメリカに、そして世界へ向けて語りかけている。



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