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山田貴子

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公開
2013/10/29   10:00
ソース
intoxicate vol.106(2013年10月10日発行号)
テキスト
interview&text :富澤えいち


“吹っ切れたピアノ”が誘った時空に漂う音の風景

山田貴子_A

外見から受けたイメージで開口一番、「お嬢様なんですか?」と問うと、キッパリ「いいえ、フツーの家庭で育ちました」と一笑に付されてしまった。

テレビから流れてくる歌謡曲ぐらいでしか音楽に接していなかった“フツーの”山田貴子が、ピアノと運命的な出逢いをしたのは5歳のとき。保育園の年長組を送る会での演奏に涙を流すほど感激してしまったという。

「それですごくピアノを弾きたくなって、親に相談する前にまず先生を探しに行ったんです」

入門を先に決めてしまえば親も反対しづらいという、子供らしからぬ知恵だが、見事にその作戦は功を奏して、ピアノを習い始めることになった。

中学・高校と音楽に近い環境に身を置き、いろいろな楽器に触る機会も増えたが、「最初からピアノしか見てませんでしたね」という一途な想いを抱いて、推薦を受けた国立音楽大学ピアノ科へ進み、卒業後はバークリー音楽大学へ。

「日本にいたころからバンド仲間に連れられてブルーノート東京のライヴを観たりしてたので、ジャズへの興味は深まっていたんです」

アメリカへのジャズ留学でピアノによる表現の枠を飛躍的に広げた山田貴子だったが、帰国すると日本のジャズ・シーンでの違和感に戸惑ってしまう。

「アメリカでは演奏さえよければキャリアもバックボーンも関係なく褒められたけど、日本では新人を手放しで認めないような雰囲気も残っていて、そんな空気に馴染めなくて、5年ぐらいは混乱してました(笑)」

ようやく吹っ切れてきた2006年に1枚目、2010年に2枚目のリーダー作をリリース。そして今年、本拠地の千葉市から芸術文化奨励賞を授与され、3枚目となる本作をリリースする。

前2作がピアノ・トリオだったのに対して、本作はギターとトランペット、さらにタブラも入るなど、“吹っ切れた感”がパワー・アップしている。

タイトル曲は、もともとアルバムの冒頭にイントロ的に挿入するつもりで作ったが、タブラを入れるなど「“違う風が吹く”という印象を与える曲になった」ので、独立してアルバムの前後半を分ける重要なポジションに収めることにしたという。

「“ザ・フロー・オブ・タイム”というタイトルは、現代的でアクティヴなサウンドと、懐かしい風景に触れているような優しいサウンドが混在して、その“時空の変わりめ”をフワッと往ったり来たりするいまの私のピアノにピッタリだと思って付けたんです」