カナダが生んだ偉大なシンガーソングライター、ケイト・マクギャリグルの追悼ライヴ
2010年1月6日、カナダのTV局はケイト・マクギャリグルの訃報をトップニュースで扱った。日本での知名度は高くないが、カナダでは同国を代表する歌手として愛されていた。
ジョニ・ミッチェル、ニール・ヤング、ブルース・コバーン、k.d.ラングなど、カナダはシンガーソングライターの名産地としてよく知られている。共通点があるとすれば、固定観念に縛られない、柔軟な発想力だろうか。妹ケイトと姉アンナのマクギャリグル姉妹は、中でも豊かな音楽性を擁するデュオだ。ケベック文化の香りも漂い、それは上記の歌手たちにはない要素だった。音楽を好む家族のもとに育った姉妹は1975年にデビューし、大きな賞賛を受ける。しかしふたりはレコード会社のさらなる宣伝戦略を退け、家族と過ごす時間を優先させることを選択した。
本作はケイトの追悼公演を編集したライブ盤である。リチャード&リンダ・トンプソン一家やエミルー・ハリスらをはじめとしたケイトの友人たちに加え、ノラ・ジョーンズ、アントニー・ヘガティなどによる演奏は絶品だ。だがやはり忘れ難いのは、アンナ、息子のルーファス・ウェインライトや娘のマーサら、ファミリーによる気のおけないアンサンブルだろう。
彼らの歌声に耳を澄ませていると、ふたりの選んだ道がけっして間違ってはいなかったことがよく分かる。彼女たちはレーベルメイトのジョニやニールのような成功を収めることはなかったが、その代わり自らの音楽を子どもたちに継承することはできたのだ。 彼女たちの音楽に触れたことがなければ、新・名盤探険隊シリーズで再発された初期作2枚『Kate and Anna McGarrigle』『Dancer With Bruised Knees』もお薦めする。
前者はローウェル・ジョージも参加したアメリカーナの傑作であり、後者を聞くとそれを独自のもの(カナディアーナ?)として確立させていく過程を、その美しさに浸りつつ、味わうことができるだろう。