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「身体」が見出す「生」の感触

カテゴリ
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公開
2013/12/13   10:00
ソース
intoxicate vol.107(2013年12月10日発行号)
テキスト
text:寺本郁夫


FOXサーチライト



FOXサーチライト20周年プロジェクト『セッションズ』、『ザ・イースト』

アクション大作を次々と発表する20世紀フォックスが、日常的なあるいは社会的なドラマを描く映画の製作を目的としたFOXサーチライト・ピクチャーズを設立して20年になるが、その20周年を記念して公開される『セッションズ』と『ザ・イースト』とが、ともに繊細でウェルメイドな映画であるだけでなく、それぞれ全く別の意味で、身体感覚の覚醒により生の感触を捉え直す映画であることは、興味深いことだ。

『セッションズ』は、全身麻痺の障害者の「性」を描く映画でありながら、実は障害者の「生」への目覚めを描いた映画だ。全身麻痺の主人公(ジョン・ホークス)が、「身体」の感覚を自ら取り戻すことによって、自らの「生」を取り戻す過程を描く映画だ、と言ってもいい。 そのための映画的な仕掛けがこの映画にはいくつかある。まず、主人公のセックス・セラピーを担当するヘレン・ハントの存在。初めての異性との接触に脅える主人公に、彼自身の身体を「意識」させつつ自身の身体に「覚醒」させることを可能にするのは、彼女のセラピーが、呆気にとられるくらい迷いのない、つまり身体に対する信頼に満ちた振る舞いで行われるからだ。そして、それ以上に、彼女の顔と声と仕種が知的で優雅で情感に満ちているからだ(それだからこそ、その彼女が、やがて思いがけないほどパッショネートな振る舞いを見せることも、この映画のもう一つの驚きになるのだけれど…)。加えて、ベッドに横たわる主人公にとって、彼女は当初、下からの角度で仰ぎ見る存在として現れるが、やがて、彼女が彼の隣に横たわり彼と水平の視野に降りてくることも、この映画の仕掛けの一つだ。

ハントのみならず、主人公と別の意味での「セッション」を繰り返す神父役のウィリアム・H・メイシーの存在も、この映画で重要な役割を果たしている。彼が担架の上の主人公と教会の通路で面談する場面が何度も繰り返されるが、主人公のあまりにストレートな性の相談とそのロケーションとのミスマッチがたまらなく可笑しくて、しかもその面談ごとに二人の位置関係が変化している(メイシーが、斜めに座っていたり対面していたり後ろを向いていたりする)ことで、その可笑しさは不断に更新される。それに加えて、メイシーの老人と子どもが混在するような不思議な相貌(そのライオンのような金髪の鮮やかさ!)も、この対話が、ある種の叡智のようなものによって肯定され、祝福されていることを実感させる。

この映画の色彩の設計(特に青と黄色のコンビネーション!)も、人生に改めて目覚める主人公の幸福を謳っていて魅惑的だが、もう一つ目を引かれるのは、これが身体の映画であると同時に言葉の映画でもある、という点だ。ハントがその日のセラピーを口述で録音していくことで、彼女が主人公との面談に新たな意味を発見していく場面が素晴らしいし、彼女が言葉によって、主人公に幼い頃の身体的な感触を伴った体験を思い出させ、彼が自分の身体と向かい合う契機を作っていく場面も、感動的だ。そしてもちろん、彼が詩人であり、自身の体験を詩の言葉に綴ることが、映画に劇的な展開をもたらすことも!

『ザ・イースト』は、環境テロリスト・グループを描く映画であるが、この映画は環境テロリストという存在を、メンバー同士の身体的な触れ合いを仲立ちに成り立つ集団として描いていく。

このグループに潜入して捜査を行う元FBIエージェントのヒロインが集団に入りこむためにまず行うのは、自らの身体を傷つけることであったし、彼女がグループに加わるためのイニシエーションは、全員が拘束衣を着たうえで互いに食事を与えあうという行為だ。傷ついた身体、不自由な身体を意識することで目覚める身体感覚。彼女がメンバーとの結びつきを強めていくのが、集団ゲームでのハグのやりとりであることからも、この集団を支えているのが身体を媒介にしたコミュニケーションであることが、分かってくる。

「裸」へのこだわりも、この映画を特徴づける。彼らの川の中での裸の沐浴にヒロインがためらいがちに加わっていく場面、水の中で彼らの手に身を委ねていくことで、彼女は集団への帰属意識を強めていく。その他、いちいちはっとするような局面で人が裸になるシーンが、この映画にはいくつかある。裸の身体で世界と触れ合い世界に向けて開かれる、といった感触が、画面からは伝わってくる。そういった感覚の人々が、身体を侵す環境汚染への怒りを募らせていくのは当然で、ヒロインがこの集団に惹かれていく理由もそこにあるわけだ。

この映画のコスチュームプレーとしての側面も、そこから自然に導かれてくる。ヒロインが環境汚染テロ対策企業の就職試験を受けにいく冒頭は、彼女がクローゼットから服を選ぶ場面から始まる。テログループに近づくためにバックパッカーに身をやつす場面、彼女はスーツを脱いでジーンズ姿になり、髪をブロンドに染める。イーストと呼ばれる彼らグループが、標的とする企業のパーティに侵入するためにパーティ用のコスチュームを身に纏う場面には、何とも言えない違和感が漂う。日々、自然に向けて開かれた身体感覚を磨く彼らが、ネクタイを着用しパーティドレスに身を包む。その場違いすぎる衣装を通して、観客は文明への違和感、と言ってもいいような感覚を味わう。ラストの彼女のある決断が、靴を脱ぎスーツを脱ぐというアクションで示されるのは、もはや当然のこととして観客に受けとめられるだろう。



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セッションズ

『セッションズ』
監督・脚本:ベン・リューイン
原案:"On Seeing A Sex Surrogate" byマーク・オブライエン
出演:ジョン・ホークス、ヘレン・ハント、ウィリアム・H.メイシー、ムーン・ブラッドグッド、アニカ・マークス
2011年/アメリカ映画/R18+
12/6(金) 新宿シネマカリテほか全国順次ロードショー


ザイースト

『ザ・イースト』
監督・脚本:ザル・バトマングリ
脚本:ザル・バトマングリ/ブリット・マーリング
出演:ブリット・マーリング、アレキサンダー・スカルスガルド、エレン・ペイジ、ジュリア・オーモンド、パトリシア・クラークソン
2013年/アメリカ映画
2014/1/31(金) TOHOシネマズシャンテ、新宿シネマカリテほか全国順次ロードショー