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ラヴ・イズ・ヘイト! 芸術家夫婦の愛と闘いの記録
NYで40年に渡って暮らす二人の芸術家、篠原有司男と妻の乃り子。夫婦であり、ライバルでもある二人に5年間に渡って密着したドキュメンタリーが『キューティー&ボクサー』だ。映画では二人の創作活動や日常生活が紹介されているが、そこには家賃の支払いに追われたり、美術館に作品を売り込んだりと、〈芸術で食べていくこと〉のリアルな姿が赤裸々に写し出されている。
「アーティストっていうのはイグジビショニストなのよ。要するに見せたがりなのよね。アート自体が心の中にあるものを全部他人に見せる行為だから、生活を他人に見られても平気なわけ。撮影も最初の頃は疲れたけど、そのうち監督を見ても電気釜くらいにしか感じなくなった(笑)」(篠原乃り子)
そもそも、ボクシングとアクション・ペインティングを合体させた〈ボクシング・ペインティング〉で注目を集めた有司男が、意気揚々と渡米したのは69年のこと。しかし、アメリカで認められるのはそう簡単なことではなかった。
「英語は喋れないし、評論家にも美術館にも全然コネがない。作品で勝負するしかないから、ひたすら制作してたよ。ナム・ジュン・パイクが隣りに住んでいて、やつだけは展覧会に呼んでくれたね。でも、(パイクが参加していた)フルクサスはダメだった。貧乏臭くて最悪!(笑)」(篠原有司男)
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そんな時に出会ったのが、絵の勉強にやってきた19歳の学生、乃り子だった。二人は出会ってすぐに一緒に暮らし始める。
「NYで知り合ったアーティストって、ほとんど作品を作らないで働いていたの。でも有司男のスタジオに行ったら、家具がほとんどなくて作品だけがあった。それって私の理想のアーティスト像だったのよ。私はまだ若くて純粋だったから、そんな彼の姿勢と作品に惹かれたのね。それが不幸の始まり(笑)。一緒に暮らすようになって子供が出来ると、有司男は私の貯金を使うようになり、私が美大で学んだテクニックを盗んで自分のスタイルを発展させていった。気づいたら、私は彼にお金もアイデアも時間も盗まれちゃったというわけ」(篠原乃り子)
映画では乃り子さんが自身の半生をモデルにした〈キューティー・シリーズ〉という作品を通じて、アーティストとしてアイデンティティを見出す姿も描かれているが、映画を通じて浮かび上がってくるのは二人の強い絆だ。「ラヴ・イズ・ヘイトでヘイト・イズ・ラヴ」。そんな乃り子さんの言葉が象徴するように、これは壮絶なラヴストーリーでもある。芸術を愛するのも人を愛するのも、二人にとっては闘いなのだ。
映画『キューティー&ボクサー』
監督・撮影・プロデューサー:ザッカリー・ハインザーリング
作曲:清水靖晃
出演:篠原有司男/篠原乃り子/篠原アレクサンダー空海/富井玲子/アレクサンドラ・モンロー/山谷周平/イーサン・コーエン/他
配給:ザジフィルムズ(2013年 アメリカ)
◎12/21(土) シネマライズ他全国ロードショー
http://www.cutieandboxer.com/