人形劇俳優たいらじょう×古楽アンサンブル
©Katsumi Kajiyama
ダンボール素材生まれの人形に魂を吹き込みながら演じ表現するクリエイターをご存知だろうか。『毛皮のマリー』『はなれ瞽女おりん』など大人の人形劇を独自の世界で創造してきた異色の人形遣いで演出家のたいらじょう。彼がこの春、挑戦する舞台は、『ギリシャ悲劇 王女メディアの物語』である。この戯曲を選んだ理由は、「狂気の中に秘めた人間の美しい姿を表現したいから」。東京文化会館から古楽とのコラボレーションの話があったときに、おおがかりな企画だけに大作に挑む可能性を感じたのだという。
エウリピデス作『王女メディア』の初演は、紀元前431年。大ディアニュシア祭にて上演された。人間の情欲をこれほどまでに濃厚に描いた古典文学が現代人の心をとらえて離さないのは、人間の本能と美意識は普遍的なのか。それとも流転する時代の潮流なのか。美しくも猟奇的な物語だけに、人形という見立てが演じることでイマジネーションをかきたてられリアリティが増すのかもしれない。ギリシャ悲劇の官能的な美を追求するためのこだわりは随所にしかけられているという。音楽監修にフランスの古楽音楽家セバスティアン・マルク、そして、日本の古楽アンサンブル、アンサンブル・レ・ナシオンが、バロック時代の作曲家らの名曲を奏でる。たいら氏は、それまでは未知なるジャンルだったバロック音楽に触れ、その豊かさ、奥深さに感銘を受け、フランス在住の音楽演出家のセバスティアン・マルクに会うためにパリに渡った。
81年生まれのたいら氏ではあるが、すでに活動歴は20周年を迎えている。12歳でデビューした早熟少年が伝承芸能として追い求める人形劇の世界とはなんだろうか。本人いわく「人形劇は、文学、音楽、美術、舞踊、演技など、文化芸術と名のつく全てが凝縮されている“総合芸術”」。父は津軽三味線奏者、母は薩摩琵琶奏者。感性豊かな幼年期に、人形劇に夢中になり、両親が手作りした人形を片時も離さなかった。
「人形を通せばなんにでもなれる。表現の引き出しを次々とあけてくれる」と小学生の時に気づき、まっすぐに進んできた己の道。そのゆるぎない信念がさらに大きな扉を次々とあけてくれた。彼の舞台が「R-15の人形劇」と呼ばれるゆえんは、子供だましではない人形劇としての証でもある。「観客の心が人形の表情をつくり出すという魔法のような現象」のために本能に訴えるアプローチに挑み続けている。
『王女メディアの物語』の舞台は東京文化会館の小ホール。現代アートのような美しい壁面や、音響の良さも味方につけて、古楽とのコラボレーションは珠玉の作品になることだろう。
LIVE INFORMATION
東京文化会館舞台芸術創造事業
『ギリシャ悲劇 王女メディアの物語 人形劇俳優たいらじょう×古楽アンサンブル』
●2014/3/1(土)15:00開演
【原作】エウリピデス
【脚本・演出・美術・人形操演】たいらじょう
【古楽アンサンブル】音楽監修・リコーダー:セバスティアン・マルク
アンサンブル・レ・ナシオン:宇治川朝政(recorder)宮崎容子、廣海史帆(vn)秋葉美佳(va)懸田貴嗣(vc)角谷朋紀(cb)福間彩(cemb)
【会場】東京文化会館 小ホール
http://www.t-bunka.jp/