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Michel Legrand

カテゴリ
o-cha-no-ma LONG REVIEW
公開
2013/12/19   10:00
ソース
intoxicate vol.107(2013年12月10日発行号)
テキスト
text:東端哲也


ルグラン・ソングブック、最強盤の登場かも。

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2013年も自身のトリオを率いて来日し、81歳の現役ジャズメンとして貫禄の演奏を披露。〈生ける〉巨匠作曲家としても比類なき存在だが、単に「往年の名画を彩った…」的な扱いでノスタルジックに語って欲しくない。最近もカナダの新鋭、グザヴィエ・ドラン監督の新作『Tom à la ferme』(来年日本公開)を観ていたら、冒頭シーンで不意に《風のささやき》が流れてきて、その歌詞があまりに、亡き恋人の実家へと車を飛ばす主人公の心情にハマり過ぎで泣けた。…要するにルグランの曲は今なお最新チューンってこと! そんな不朽の名曲たちをオペラ界の頂点を極めたスター・ソプラノが歌う最強のアルバムが登場した。

ルグランが女性歌手と組んだ作品集はこれまでにも数多あるが、本盤は珠玉の映画サントラ曲を完全網羅し、フランスのクロード・ヌガロら名歌手への提供曲、自ら歌ったもの、知られざるナンバーまでが詰まったグレイテスト・ソングブック的な最高の選曲。何より、世界の名だたる歌劇場で聴衆を熱狂させてきたあのナタリー・デセイがオペラ歌唱を完全封印し、シャンソン歌手として本気で挑んだ凄過ぎる1枚なのだ。実際、冒頭の《デルフィーヌの歌》から「デセイって本当はこんな素敵な声だったのか!」と、ガチガチのオペラ・ファンも耳から鱗の魅力的な歌唱が飛び出すので覚悟した方がいい。しかもフランス語と英語に加えてロシア語まで自在に操り、深い読みや解釈に基づいて、まるで目の前で舞台が進行しているかのように歌の世界を紡ぎ出す。加えて《リラのワルツ》や《風のささやき》ではルグラン本人と、あの《ギイとジュヌヴィエーヴの二重唱》は夫君(バリトン歌手)と、そして《双子姉妹の歌》は同じフランス人でコロラトゥーラの名手でもあるパトリシア・プティボンとノリノリで豪華デュエットを繰り広げるという贅沢さ。もちろん伴奏は前述のルグラン・トリオ、と抜かりない。唯一の不満はキリ・テ・カナワやジェシー・ノーマンとの時みたいな書き下ろし曲がない…と思っていたら、噂では次回に連作歌曲のような全くの新作を既に予定しているとか! これはもう楽しみに待つしかない。

なお、自らコンパイルしテーマ毎に15枚のDISQUEから成る最新BOX『ANTHOLOGY』(輸入盤)も発売中。こちらもガーシュウィン曲だけ集めた1枚から、本人ヴォーカル集、アニメ作品集、舞台ミュージカル集らを含んで盛り沢山。今回デセイが採りあげた曲をオリジナル歌唱と聴き比べてみるのもいい。《リラのワルツ》がジャクリーヌ・フランソワ、本人歌唱、バーブラ・ストライサンドの《ワンス・アポン・ア・サマータイム》と3回も入っているのが興味深い。



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