シネマ歌舞伎6作品と、主演スペシャルドラマ1作品が、待望のブルーレイ&DVD化!
歌舞伎芸術は、その伝統と格式という堅い殻から解き放たれ、時間や形式を乗り越えて舞台芸術のひとつとして日々進化を続けている様だ。歌舞伎はついこの間まで「通」と言われる人のものでしかなかった時期もあった様にも思える。その芸術の馴染みのない世代にも、その見方や楽しみ方を広く伝えるべく歌舞伎界は随分試行錯誤してされてきたのではなかろうか。思えば、おもしろいものを観たい体感したいと言う観客の本質的な想い(欲求)をくすぐり、それをエンターテインメントたっぷりにプレゼンテーションする歌舞伎プレゼンターの役割を買って出たのが歌舞伎界での中村勘三郎さんの出現だった様に思えて来る。生前、何かの番組のインタヴューで、「芝居と言うものは、その演目を観に行くところから既に芝居の一部が始まっており、お客さんが体験する空間は、家路へと向かう劇場の扉を開けた瞬間から徐々に閉じられてゆく…と言う趣旨のことを言っておられた。そして続けて「だからこそ、お客さんのおもしろいと思う芝居を提供しなければいけない」と言う使命感のようなものも熱く語られておられた。
勘三郎さんが、歌舞伎に止まらず、精力的に舞台芸術に果たした役割は大きい。近代的な舞台空間で行われた「コクーン歌舞伎」は、若い世代の歌舞伎観客層の心を掴むことに成功した。また 「夢の遊民社」「300」「オンシアター自由劇場」などを作・演出し現代演劇界をリードした、野田秀樹、渡辺えり、串田和美たちと一緒に手を組み、古典の斬新な解釈や新作歌舞伎と言った新しい取り組みに果敢に挑戦している。今でこそ、企画公演やプロデュース公演が、演劇のジャンルの垣根を越える演劇界ではあるが、今日の歌舞伎ニューエイジたちに与えた影響は大きいのではないだろうか。一周忌のメモリアルイヴェントの日、中村七之助さんは、「父はお祭りとか好きだったので、上で見ていてくれるとうれしい」とコメントしたそうだ。イヴェントのフィナーレには、勘三郎さん自筆の「ありがとう」という垂れ幕が下りてきたのを映像で見て、勘三郎さんの人柄が偲ばれると同時に、演劇に尽力してこられた謙虚さと、観客への気遣いこそが、演や歌舞伎の発展に繋がっていることを改めて勉強させられた。勘三郎さん、こちらこそ、ありがとうと伝えたい。