ライター・岡村詩野が、時代を経てジワジワとその影響を根付かせていった(いくであろう)女性アーティストにフォーカスした連載! 第14回は、しなやかな演奏を聴かせる女性メンバーに注目したいPirate Canoeを紹介します。
京都に拠点を移して3か月になりました。東京と京都を仕事で毎月行き来しているとはいえ、市民として京都の街中を散策するようになって初めて気付くことも多い毎日です。例えば、東京と比べると圧倒的に数は少ないですが、京都ではまだまだCDショップが元気です。タワーレコード京都店もビルの上階にあるにもかかわらず大勢のお客さんでいつも賑わっていますし、インストア・イヴェントも頻繁。また、関西の新人バンドの作品が試聴機に入っていたり、京都で行なわれるライヴやコンサートにタワレコ京都店が物販で出店されているのを見ると、朝ドラの「あまちゃん」で主人公のアキがメンバーとして在籍するご当地アイドル・グループ=GMTじゃないですが、しっかりと〈地元〉を盛り上げようとする意識が感じられて嬉しくなります。いま、名古屋や中部地区からジョセフ・アルフ・ポルカ、YOK.などおもしろいアーティストが多く出てきていて注目しているのですが、たぶん他の地方都市でもこのような感じで〈GMT状態〉になっているのでしょうね。頼もしい限りです。良い音楽を手に取るには良いショップがないと! これ、鉄則です。
そういうわけで京都はバンドやアーティストのみならず、CDショップ/レコード・ショップも充実しているわけですが、そんな京都のショップでもっとも愛されているバンドのひとつがPirate Canoe(パイレーツ・カヌー)です。彼らは京都在住の男女混合アコースティック・バンド。街のあちこちのライヴハウスやカフェなどで気軽にライヴをやっているほか、ジム・クウェスキン&ジェフ・マルダーの来日公演で前座も務めたことがあったり、テキサス州で毎年行なわれている〈SXSW〉に出演したりと、マイペースかつ柔軟に活動の場を広げています。コンピ『モナレコードのおいしい音楽 ~風と踊る唄』にも参加していたので、京都在住者ならずとも注目している人は多いことでしょう。
Pirate Canoeの音楽の素晴らしさは、言ってみればブルーグラスとアパラチアン・フォークとアイリッシュ・トラッドとジャグ・バンドそれぞれの要素を優雅かつカジュアルにミックスし、あくまで親しみやすいポップスに昇華している点です。しかも、メンバーは男女3人ずつ合計6名ですが、女性陣だけでもライヴができる実力派。アコースティック・ギター、フィドル、マンドリンなどを弾きこなしながら、しっかりとコーラスワークにも気を配ったクォリティーの高いパフォーマンスは見ていて溜め息が出るほどで、音楽性は驚くほど高いのに、誰でもウェルカムな敷居の低い空気を醸し出していることには本当に感心させられます。いや、やっぱり女の子3人という柔らかい雰囲気が小難しく聴こえさせないのかもしれません。
そんなPirate Canoeの女性3名――美声の持ち主で英語の歌詞も自在に操れるハント鈴加、マンドリン片手にソロとしてもステージ立つ河野沙羅、アイリッシュ・トラッドからフィドルの道を歩んできた欅夏那子――だけで作られたのが最新作『SAILING HOME』。いずれも素朴で人肌の温もりが感じられる歌と演奏ではあるのですが、例えば中盤でテンポも展開も大きく変わっていく“Ballerina Meena Jane”のような楽曲の構成力には、この手の音楽を何十年と聴き込んでいるヴェテラン・リスナーたちも舌を巻くほど。一方で、ブルーグラスなんて知らないというような若いリスナーにとっても、1曲のなかに登場人物がちゃんといて、ささやかなドラマが描かれている、そんな細やかな歌詞が魅力のひとつとなっているようです。
彼らが所属する京都のレーベル=On The Cornerのオーナーであり、バンドのサウンド・プロデューサー的な存在である中井大介の初ソロ作『nowhere』(間もなくリリース)にも、この女性3名を含むPirate Canoeのメンバー全員が全面参加。この後は6人編成での新作も予定されているとか。そう、もちろん男性陣もいてこそのバンドなんですが、でも、この女性陣3人が初々しくも溌剌とした表情で、しっかりと地に足をつけて音を鳴らす姿は、若い女の子が率先して起業したりモノ作りをしたりするいまの時代の象徴のような存在なのかもしれません。