ロック・フォトグラファーとして活躍、さらにロック・ジャーナリストとしての顔も持つ〈現場の人〉久保憲司氏が、ロック名盤を自身の体験と共に振り返るコラム。今回は、〈サマソニ〉出演のため、いままさに来日中のレジェンド、ペット・ショップ・ボーイズのニュー・アルバム『Electric』について。80年代テイストが感じられるこの作品を聴くと思い出す。そう、僕たちはパーティーをしたかっただけなんだーー。
80年代組の新作がどれも素晴らしい。どれもといってもデペッシュ・モードの『Delta Machine』とこのペット・ショップ・ボーイズの『Electric』か。
デペッシュ・モードはいつも素晴らしい。ダークな音楽だけどいつもポップというか、人を惹き付ける要素がある。しかも、どこか新しさを感じさせるところが絶対ある。彼らの新作がラジオから流れてくると、〈おっ、なんだこのカッコイイ音楽は。あっ、デペッシュ・モードか。やるな〉と思わせてくれる。
ペット・ショップ・ボーイズの音楽もまさにそういう音楽だ。前作『Elysium』が売れなかったという噂を聞いていたので心配していたのだが、今回の『Electric』は完全復活している。
『Electric』は、この『Elysium』と対になっているようなアルバムではないだろうか。『Electric』からは政治的なメッセージが強く感じるので、そんな気がする。プライマル・スクリームの最新作『More Light』といい、80年代組は現在の状況にイライラしてる感じがする。
このへんのことを語り出すと、〈いまの若い者は……〉と愚痴るオッサンの会話になりそうなので、そういうことは置いときいたい。そうしたいくらいに今回のペット・ショップ・ボーイズの新作は、音が、グルーヴがいいんです。前々作の『Yes』では、ゼノマニアをプロデューサーに起用して、ペット・ショップ・ボーイズを同時代性のあるダンス・ミュージックに変えていましたが、今回はジャック・ル・コントことスチュワート・プライスが80年代の音、グルーヴをやっているんです。それが良い、とっても良い。
PCも使わず、グルーヴが不安定な80年代のシーケンサーを使っている感じがするんです。いまのPCは凄すぎて、昔の機材を使っているのかPCだけでやっているのかわかんないですけど、ニール・テナントが「これにはマドンナのファースト・アルバムのような、80年代初めのテイストがある」と言っているように、80年代の感触があるんです。ドラム・マシーン、シンセ1台の音色だけで曲が出来ていたあの頃の感じが。
前回のコラムで、カニエ・ウェストの最新作『Yeezus』はその頃の音楽へのオマージュだと書きましたが、本物はやっぱり違うという感じなんです。若い人にも聴いてほしいんですよね、80年代のぼくたちが何を夢見ていたかを。いまも何も変わっちゃいないんですけどね。
パーティーをしたかっただけなんですよ。打ち込みが出てきた頃、〈こういう音楽はすぐになくなる〉と言われた。でも、どうです? 皆さん。いまや、そういう音楽だって主流にある。で、そうした音楽を作ってきた人たちが、現在のメインストリームに「お前ら薄まってないかい?」と問いかけているような気がするんです。
オッサンの愚痴かもしれませんが、でも、このペット・ショップ・ボーイズの『Electric』を聴いてもらったらわかるような気がするんです。