平原綾香がピアノ伴奏でしっとりと歌う、J-POPスタンダード《EVERYTHING》、《たしかなこと》、《朝陽の中で微笑んで》…
ドラマを締めくくる名シーンが、ひとつのコンサート・ドキュメンタリーのように
この春、NHK BSプレミアムでオンエアされていたドラマ『ラスト・ディナー』をご覧になられていただろうか。パラレル・ワールドに存在するレストランを舞台とし、会いたくても叶わないふたりが再会する不思議な一夜の物語が描かれていた。ラヴロマンスからコメディー、サスペンスまで、各回さまざまな人間模様が語られていくこのオムニバス・ドラマ、レストランに集うふたりというのが、木村佳乃や長塚京三、高良健吾や渡辺いっけい、賀来千香子やかたせ梨乃など豪華なことも話題で、舞台ふうのセットにおいて繰り広げられる両者の演技合戦も見ものだった。
音楽ファンにとっては、毎回クライマックスに登場する平原綾香による歌唱シーンが楽しみであったろう。ふたりの別れの時、レストランの専属シンガー役の彼女が現れて、彼らの思い出の曲をドラマティックに歌い上げる。若松了が脚本を書いた第1夜〈また逢える日〉ではこんなふう。すでにこの世の住人ではない彼氏(山本耕史)がレストランで彼女(田中麗奈)との最後の思い出を作り、旅立っていこうとするその刹那、平原が歌うMISIAの大ヒット・バラード《EVERYTHING》が静かに流れ出し、ゆっくりと柔らかな音のベールでふたりだけの空間を満たしていく。この歌がなければ絶対に幕引きは不可能だろうと誰にでも思わせるような歌唱でもって。雰囲気たっぷりに、そして実に味わい深く。
毎回、平原がJ-POPスタンダードをカヴァーしていることも注目すべき点である。坂本昌之のピアノ伴奏で、小田和正の《たしかなこと》、米米CLUBの《君がいるだけで》、森山直太朗の《さくら(独唱)》、中島みゆきの《糸》、GO!GO!7188の《こいのうた》、ハイ・ファイ・セット(荒井由実)の《朝陽の中で微笑んで》などをしっとりと表現する彼女。選曲もドラマの内容と同じく、ヴァラエティーに富んでいて楽しい。聞けば、今回彼女が泣きながら歌った曲もたくさんあるとのことだが、確かに時折、歌の世界に没頭して、目を潤ませながらじっくり歌を紡ぐ彼女を見つけることができて、胸がジーンとさせられることもしばしばあった。
そんな平原綾香の感動的な姿を、このたびリリースされるDVD&Blu-rayでぜひあなたも確認してみてほしい。THE BLUE HEARTSの《1001のバイオリン》なんていうちょっと意外なカヴァーも含めて、すべてここでしか観られないエクスクルーシヴなパフォーマンスである。どのメニューも絶品の味を堪能させてくれることをお約束したいと思う。