ガッド率いるスーパーバンドが示唆する、新しいジャズのパースペクティヴ
これまでに参加した数多くの名盤、名演から世界最高峰のドラマーと賞賛され、またドラムの神と崇められプロ・アマを問わず世界中のドラマーたちに影響を与え続けているスティーヴ・ガッド。意外にも久し振りとなる、スタジオ録音によるリーダー・アルバムが世界に先駆け日本で先行発売された。思えばTHE GADD GANGのセカンド・アルバム『HERE & NOW』(1988年作品)以来、じつに25年振りである。また本作は、彼にとって初めてのセルフ・プロデュース作品というオマケ付きだ。
彼が本作で率いるニュー・バンドはマイケル・ランドウ(g)、ラリー・ゴールディングス(key)、ジミー・ジョンソン(b)、ウォルト・ファウラー(tp)という強者揃い。ガッド本人も含めて、全員がジェームス・テイラーのバックアップ・メンバーという繋がりを持っている。よってメンバーの相性は抜群。さらに全員が長年ジャンルを越えて活躍する売れっ子だけあって、一音一音の存在感は秀逸。また、各人が個人プレイに走ることなく曲の出来上がりを重視した歌心あふれるプレイを展開しているのはサスガ。あえてテクニックを全開にせず、余裕の演奏で至高のアンサンブルを聴かせてくれるのである。
さて、レコーディングはマイケル・ランドウのハウス・スタジオで行われている。スティーヴ・ガッド本人の弁によれば「気の合う仲間が家族もみんな一緒に集まりレコーディングしながら過ごすというシチュエーションが、創作にあたってとてもプラスに働いた」ということだ。収録された曲はマイケル・ランドウ、ラリー・ゴールディングスを中心とするメンバーによるオリジナルに加え、キース・ジャレットの作品から《The Windup》と《Country》の2曲をカヴァー。また、アフリカ最強ピアニストの異名をとるダラー・ブランドの《The Mountain》もカヴァーしている。本作には晩年のマイルス・デイヴィスを彷彿させる内省的なサウンド・スケイプ風ナンバーからプリミティブなブルース・ナンバー、クラシック風スパニッシュ・ナンバー、さらにグルーヴィーなR&B風ナンバーまで幅広い音楽性が同居しているが、全体を貫いているのは静かなる脈動を思わせるスティーヴ・ガッドの渋いリズム。これぞコンテンポラリーなジャズと言えよう。ここにはフュージョンとはまた違ったベクトルを持つ、ジャズの新たな可能性が感じられる。
まさにスーパー・グループという表現がピッタリの、このニュー・バンド。来たる10月には待望の来日公演を含むアジアツアーが決定している。その前に、アルバムの収録曲はしっかり予習しておこう。
LIVE INFORMATION
『Steve Gadd Band featuring Michael Landau, Larry Goldings, Jimmy Johnson & Walt Fowler』
10/9(水)名古屋ブルーノート
10/10(木)〜10/2(土)ブルーノート東京