際立つ“KEIJI”的、空間
近年は"experimental mixture"としてDJを行っている灰野敬二によるMIX CDが完成した。クラシック、ハードコア、サイケデリック、ミニマル・ミュージック、エレクトロニクス、現代音楽や民族音楽…などなど音宇宙が無数に広がる。さて曲と曲とを緩急ついた構成に沿って、ピッチを合わせ繋いだ所謂「DJ MIX」と呼ばれるようなものとは印象を大きく異にするこの作品。CDJ4台、リズムマシン2台を駆使して収録した音源に2年の編集期間をかけてまとめあげた3枚組。それはひとつのトラックの中にカット・アップされた様々な音素材が重なり合い進行する多層的な構造をもつ。またコラージュ的な編集のみならず加工や変調などの音響処理が施されおり、ふとクリスチャン・マークレーらターンテーブリストやノア・クレシェフスキーなどのテープ音楽なども想起してしまう。あたかも短波ラジオのダイヤルを回しているようなサウンド・カレイドスコープが次々と展開されていく。音の塊が鬩ぎあうアグレッシヴで非常に刺激的なMIXに仕上がっている。
今作で独特な制作方法と共に興味深い点は、音の組み合わせの妙である。プリミティヴな打撃音に詠唱が折り重なったり、バロックとノイズが見事に融合するさまは、灰野敬二の並々ならぬ音楽の造詣の深さなればこそであるが、軽妙なカントリーにファニーな笛の旋律が高速で追いかける冗談音楽のようなものや、リズムボックスのビートやジャズのフレーズに自然音や生活音が差し込まれるトラック、シタールの音色にラップが絡みつくなど、従来の灰野敬二のイメージを超えるサウンドも繰り広げられていて斬新だ。その音の持つ背景を意識しての組み合わせでもあるのだろうが、茶目っ気さえも感じてしまう豊かさを湛えている。「MIX」行為さえも独自のスタイルへと深化させてしまう、灰野敬二の存在が際立つ作品である。