メキシコシティ在住のライター・長屋美保が、メキシコのローカルな音楽情報をお届けする連載! 第3回は、新作をリリースしたばかりのクンビア・バンド、ソニード・ガジョ・ネグロについてと、彼らも多く出演するメキシコシティにおけるインディー・シーンの登竜門的存在の〈アリシア〉を紹介!
¿Qué Onda Güey?(調子はどうだい、メ~ン?)。まだ2月だというのに、メキシコシティはだんだん暑くなってきました。この原稿を書いているのが、まさにヴァレンタインデーだったわけですが、日本では女性が意中の男性にチョコレートをプレゼントして気持ちを告白する日ですよね。しかしメキシコでは、意中の人に愛を告白するのはもちろんですが、恋人、友人、家族に対して日頃の感謝や愛情を伝える日なんです。というわけで筆者にも誰か感謝のチョコくれねえかなあ……と思っておりましたが、誰もくれませんでした。
気を取り直して、ここでメキシコ流の愛の告白方法を紹介します。
メキシコ流告白の一例
車に〈TE AMO(あなたを愛しています)〉というメッセージが付箋でびっしり貼られていますね。いやあ、これは恥ずかしいですー……つーか、こんなことされたら重いわっ!! でも、そんなメキシコの人たちのストレートな怨念、好きです。まあ、メキシコには惚れ薬や、好きな人をモノにするための呪術があたりまえのようにありますからね。
メキシコシティの呪術市場ソノラ市場の様子
なんと、メキシコシティには巨大な呪術市場があるんですよ~。シャーマンや魔法使いたちがいて、お祓いも呪いも願い事も叶えてくれるんです。そして呪術といえば、日本でもデビュー・アルバム〈野生のクンビア〉とセカンド・アルバム〈神秘のクンビア〉がリリースされている、メキシコシティの下町出身である〈謎のクンビア軍団〉、ソニード・ガジョ・ネグロです!!
ソニード・ガジョ・ネグロの皆さん (C)SONIDO GALLO NEGRO
ガレージ・ロック魂に溢れるクンビアやチーチャ(ペルーのアマゾン地帯の音楽や、クンビア、サーフ、サイケデリック音楽を混合した、60~70年代に流行した酒場音楽)を演奏し、着実にファンを獲得しつつあります。彼らの音は、人口2000万人以上という世界最大級の都会でありながら、いまだに呪術が行われていたり、薬草文化が盛んだったりして、先住民系の土着の風習が残るメキシコシティの不思議を体現しているのです。
Cumbia Espantamuertos - Sonido Gallo Negro from jorge alderete on Vimeo.
ソニード・ガジョ・ネグロのPV。メキシコの墓地で悪魔払いをする人たちの姿が捉えられています
Sonido Gallo Negro "Cumbia Salvaje" ahora en Japón. from sirlandau on Vimeo.
日本のためのプロモーション・ビデオ
彼らのライヴは、まるで儀式のよう。黒装束や秘密結社風な揃いの衣装でクールに演奏します。最初は、メキシコシティのガレージ・ロックやサーフ・バンドでも活躍中のメンバーたちが、週末に仲間で楽しむために結成した趣味のバンドだったのですが、現在では押しも押されぬ大人気グループになりました。
Sonido Gallo Negro Vive Latino 2013
(メキシコ最大のロック・フェス、〈ヴィヴェ・ラティーノ2013〉に出演した時の映像)
こんなスタジアム級のフェスにも出演するほどなんですよね。ライヴに集まるオーディエンスは、スラム・ダンスをする若者から、身体を寄せ合ってペアでしっぽり踊るカップル、ヒップスター系までさまざまです。
それでは、彼らがインスピレーションを受けるメキシコシティのダークだけど気になるものをちょっと紹介していきましょう。
〈テピート地区〉
(左)テピート地区にある古着市場 (右)同地区にある抗争で亡くなった人たちを弔うための壁画
メキシコシティきってのバリオ(下町、ゲットー)といえば、市の中心部に程近いブラック・マーケットのテピート地区。ここでは日用雑貨、最新映画の海賊DVD、密輸入した最新モデルのスニーカー、ペット、ドラッグなんてものまで売られています。毎週日曜のアンティーク市場が観光客にも人気(裏通りに入ると危ないので気をつけましょう)。アンティーク市場では中古レコードも売られております。ガジョ・ネグロは、このマーケットで売られていたペルーの60~70年代のインスト・クンビアのコンピCDを聴いて影響を受け、現在のバンド・コンセプトを決めたのだとか。
〈サンタ・ムエルテ〉
サンタ・ムエルテを祀るテピート地区の教会と信者たち
テピート地区で有名なのが、メキシコのガイコツの聖母サンタ・ムエルテの教会です。〈神秘のクンビア〉の1曲目、“La Patrona”はこの聖母に捧げられています。サンタ・ムエルテは犯罪者のための聖人と思われていますが、実は一般の信者もとても多いんですよ。悪の味方というよりも、むしろバリオの秩序を保っていると感じます。
テピートのサンタ・ムエルテ教会周辺。
毎年サンタ・ムエルテの記念日である10月10日は盛大に祝われます。まるで縁日のよう
信者の方々が着飾らせたサンタ・ムエルテ像を道に並べています
家族連れも多くて、実にアットホームな雰囲気
〈ソノラ市場〉
前述のメキシコシティの呪術市場。〈野生のクンビア〉の曲作りにかなり影響を与えています。
薬草が大量に売られてます。煎じて飲むほか、お清めにも使われます
願い事が叶う石鹸。意中の人を射止めるため、商売繁盛など、さまざまな効能があるようですぜ
おまじないキャンドル。メキシコのキャンドルは癒しだけじゃない! 欲望を叶えるためのものなのよ!
おまじないグッズいろいろ。何かご利益がありそうな粉が量り売りされています
ソニード・ガジョ・ネグロがクンビアやチーチャをやることになったのは、元を正せばメキシコシティの老舗文化スペース、〈Multiforo Alicia(ムルティフォロー・アリシア。以下、アリシア)〉のオーナーであるナチョが、彼らにテピートで買ったCDを貸したのがきっかけでした。メンバーのなかにはアリシアの音響スタッフをやってる人たちもいることから、彼はここで頻繁にライヴをやっているのです。
アリシア代表のナチョ
アリシアで演奏するソニード・ガジョ・ネグロ
アリシアでのソニード・ガジョ・ネグロのライヴの様子