アルゼンチンのアーティストに感じる日本人的な感覚
Photo by Nobuhiko Nakamura
南米からのCD輸入の仕事を通じて2000年頃から個人的に知り合うこととなったアルゼンチンのアーティストたちにある種の日本人的な感覚を感じることがある。フアナ・モリーナしかり、フェルナンド・カブサッキしかり。音楽性は異なるが、淡々と自分の活動を継続しながら、我慢強く自らの道を切り開いていくタイプだ。彼らの多くは肉を食べないし、コーヒーも飲まない。いわゆるラテンアメリカ人に顕著な“底抜けの明るさ”も感じられないし、華やかなポップ・スターでもなければ、やくざなバンドマンでもない。
ノラ・サルモリアもそうしたアルゼンチンの音楽家のひとり。作編曲家でピアニスト、ヴォーカルやその他の楽器も手掛け、これまで20年以上に渡り独自の音楽活動を続けて来た。アルゼンチンの伝統音楽を踏襲しながらも、片方でジャズやポップス、ワールド・ミュージックなども聴き、必要な要素は自分の音楽表現に加えて来た。アルゼンチンではまだ自主制作のCDなどが出回っていない時代にファーストアルバム『Vuelo Uno』(1995)をリリース。それが1999年に日本に届き、僕らは彼女の存在をCDで知ることになる。2000年の4月には僕はブエノスアイレスへ赴き彼女に会って話をする機会を得た。そしてその年の暮れにノラは母国から一番遠い国へやって来る。非公式な来日だったが都内で何度かのライヴ演奏を行ない、彼女の来日を知ったごく少数のリスナーには強烈な印象を残している。それから13年の時を経てノラは再度日本の土を踏んだ。
13年の間に彼女のピアノは以前よりもさらに強さを増していた。昨年11月27日にUPLINK FACTORYで行なわれた『アルゼンチン音楽のリズム・ワークショップ』は実演を含め、各地の多様なリズムを分かり易く解説してくれたが、その時の彼女のピアノは実にスケールの大きなもので、特に左手から生まれる強靭なリズムには真底魅せられた。11月30日めぐろパーシモンホールにて、ブラジルのアンドレ・メーマリ、日本の矢野顕子らとステージを分けたコンサート『The Piano Era 2013』ではトップ・バッターとして緊張した様子もあったが、ほぼ全編オリジナル曲を演奏し、その持てる力を出し切った。
ノラの音楽はバックボーンにアルゼンチンの伝統的なリズムをしっかりと持っている。それは1作目の『Vuelo Uno』から12作目にあたる最新作『Silencio Intenso』まで一貫しており、彼女の眼の中には自分の歩むべき道がしっかりと見据えられている。