ドローン・ミュージック界の世界的ムーヴメントを日本から!
コンピュータやサンプラーによる音楽作りが一般普及した90年代後半以降、サウンドの多様化も一段と進んだが、そうした状況の中で今改めて活性化してい るのがドローン・ミュージック、つまりノン・ビート の持続音をベースにしたサウンドである。そして、そ の世界的ムーヴメントを日本から強力に推進している 気鋭の音楽家が畠山地平だ。
元々はロック・バンドのギタリストとしてヘヴィ・ メタルなどを弾いていたという畠山(78年生まれ)が自分で音楽を作り始めたのは、コンピュータやシー クェンサー、サンプラーなどを手に入れた大学時代の こと。最初は打ち込みビートを使ったデジ・ロック的 なものを作っていたが飽き足らず、ある日ビートを抜 いてみたら途端に面白くなり、自分の目指すべき方向 が明確に見えていったという。同じ頃、大友良英や中 村としまるなどによる実験的な電子音響作品に感銘を 受け、ジョン・ケージ、ラ・モンテ・ヤング、ブライ アン・イーノといった先駆者たちによる現代音楽やア ンビエント作品などを広く聴き漁るようになったこと も、彼の新たな船出を後押ししたはずだ。
畠山は、前衛音楽専門レーベルとして定評のあるシ ガゴの〈Kranky〉から06年にソロ・デビュー・アルバム『Minima Moralia』をリリース。ギターやヴァイオリン、ヴィブラフォンなども用いたこの傑作はにわかに注目を集め、「Chihei Hatakeyama」の名は世界へと広まっていった。以後、英国の〈Rural Colours〉〈hibernate〉〈Under The Spire〉、豪〈Room40〉、 ノルウェイ〈Soundscaping〉、そして日本の〈Home Normal〉〈Whereabouts〉〈AIRPLANE〉等々、内外のインディペンディント・レーベルからたくさんの作品を発表し続けており、海外でのライヴ・ツアーもおこなっている。また昨年は、自らアンビエント専門レーベル〈White Paddy Mountain〉を立ち上げて、ASUNAやシェリング、あるいは『Alone By The Sea』など自身のソロ作品をリリースしている。「アンビエントの歴史はまだ初期段階で、これからもっと発展してゆくんじゃないか」という彼の発言には、自分自身に向けたある種の使命感すら感じさせる。
現在彼は、伊達伯欣とのエレクトロ・アコースティ ック・デュオ、オピトープ(Opitope)や、ヴォーカ リスト佐立努とのルイス・ナヌーク(Luis Nanook) も並行して稼動させており、更に今後は、自分で歌う ポップなプロジェクトもやりたいと考えているそうだ が、畠山ならきっと、多層化されたサウンド・ループ や倍音、残響などを上手く用いた新しいポップ・ソン グを生みだせるはずだ。期待したい。