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東京文化会館 舞台芸術創造事業 日本舞踊×オーケストラVol.2

カテゴリ
O-CHA-NO-MA PREVIEW
公開
2014/06/23   16:15
ソース
intoxicate vol.110(2014年6月20日発行号)
テキスト
text:山野雄大

管弦楽団と舞い踊る日本、和バレエ!?



左から吉田都、花柳壽輔、麻実れい、轟悠、園田隆一郎 写真提供:東京文化会館 撮影:青柳聡





2度目の公演が決定!《日本舞踊×オーケストラ》公演

意外な組み合わせからこそ、生まれる驚きがある。花柳流四世宗家家元・花柳壽輔を総合演出に迎えた《日本舞踊×オーケストラ》公演、その名の通り日本舞踊の名手たちとピットのオーケストラが共演する珍しいステージだが、2012年の初回から好評を重ね、めでたく再演が決まった。しかも今回はゲストに迎える出演者がまた驚きだ。

──世界バレエ界の至宝・吉田都、ゴージャスな存在感を魅せる女優・麻実れい、宝塚の輝かしき男役スター・轟悠。それぞれのジャンルで圧巻の人気を誇る3人が、日本舞踊とオーケストラの共演という和洋の出逢いに挑戦する。去る6月9日、壽輔師をはじめ主演陣が一同に会して制作発表記者会見がおこなわれたので、その模様と共に公演についてご紹介しよう。

傘寿を越えてますます意欲的な花柳壽輔は、日本舞踊界を代表する存在であると共に、若い頃から歌舞伎・宝塚歌劇・演劇・バレエなど多彩な分野で活躍を続けてきたひと。その広い視野はもちろん人脈も豊かだ。バレエ界の巨匠振付家ベジャールが忠臣蔵を題材にバレエ《ザ・カブキ》を創った折、日本側スタッフとして振付に深く関わった経験も持つ。…今回の豪華ゲストも、壽輔師が熱意をこめる公演ならではの実現と言える。

シリーズ初回から、壽輔師は“バレエでお馴染みのオーケストラ曲”を軸に選曲してきた。“和”の世界へ換骨奪胎するにもふさわしいというわけだが、今回はそのバレエ界からいよいよ、世界を代表する人気ダンサー・吉田都をゲストに迎えての公演。彼女の演目は《ボレロ》だ。ベジャール振付版をはじめ数々の名作バレエが生まれてきたラヴェルの名曲に、日本舞踊とバレエダンサーが共演する前代未聞の挑戦となる。

吉田都は英国ロイヤル・バレエ団の輝きを代表するプリンシパルとして活躍したのち、今もフリーランスとして美しい熟練で表現の領域を広げつつあるが、日本舞踊とは初共演。実は彼女、たまたま《日本舞踊×オーケストラ》初回公演をテレビ放映で観たそうで、20世紀バレエの名作を日本舞踊でみせた「《ペトルーシュカ》に目が釘付けになってしまったんです」と語っていた。バレエと日本舞踊では身体の使い方の原則からして異なるが「表現の豊かさでは共通するものがあるんだなぁと凄く感じました」。

ちなみに、バレエダンサーにふさわしい振付を創る大役は、気鋭の振付家アレッシオ・シルヴェストリンに托される。ベジャールやフォーサイスといった鬼才振付家のカンパニーで踊り、2003年からは日本を拠点に数々の優れた振付作品を発表している。

「アレッシオさんの作品は、それぞれ前衛的な振付の中で、ピュアに踊りを見せる作品もあれば、照明や空間など面白い工夫をされたり。作曲などいろいろな試みをされるかたですから、面白いアイディアを持っていらっしゃるだろうとご一緒するのが楽しみなんです」

クラシック作品を踊り磨いてきた吉田都が、コンテンポラリーの振付へ(しかも日本舞踊の男性群舞36人と!)というのは、ファンにとっても驚きの挑戦だ。

「私にとっては凄く勉強になるお話ですし、日本舞踊の方々と一緒に創り上げてゆく過程からもいろいろ吸収させていただきながら、舞台に臨みたいと思います」と吉田も挑戦への意気込みを語る。





元宝塚のトップスター、麻美れいと花柳壽輔のデュオ!!

シリーズでは、花柳壽輔自身もドビュッシーの音楽に振り付けて出演、バレエへの憧憬と日本舞踊の美学を深く融和させたその振付・演技は絶賛を浴びてきた(その佇まいから一挙一動の美しさ、ほんとうに震えが来るほど凄いのだ!)。──今回も、自身で踊る作品にはドビュッシーを選んだ。題して《パピヨン》。フランス語で“蝶”を意味する。

これは、日本舞踊の演目《保名(やすな)》を題材にしたもの。原作は、亡き恋人を想う男が正気を失い、春の野辺で幻を追う踊りなのだが、ここに小道具として蝶が出てくる。この蝶が男を前に踊る…というものだが、このパピヨンを踊るのがなんと、麻実れい。宝塚歌劇団・雪組トップスターとして人気を博し、退団後も舞台女優としてますます才能を開花させた素晴らしい存在だ。

「いま私は、舞からは遠い演劇の道を歩んでおります。お話をいただいたとき悩みましたが、こんな素晴らしい機会は望んだって来るわけじゃない。だったら壽輔先生の大きな胸をお借りして、勉強させていただきたいと」と麻実れいは語る。

ちなみに音楽はドビュッシーの神秘的な名作《夜想曲》。「私はクラシック音楽がたいへん好きなんです。ドビュッシー《夜想曲》もとても好きな曲。ゆっくりしたい時には必ず聴いています。この曲に包まれて…という機会を本当に幸せに感じています。そして、私だけでなく皆さんそれぞれの舞台を観させていただくのも喜びのひとつです」

麻実れいと花柳壽輔とのデュオ。そして衣裳は森英恵。ゴージャスな凄味ある舞台になりそうではないか。





日本舞踊×ジャズ!《ポーギーとベス》から編まれた交響組曲《キャットフィッシュ・ロウ》

そしてシリーズ3回目にして新機軸、《いざやかぶかん》は日本舞踊とジャズ、というこれまた驚きの組み合わせだ。オーケストラ音楽とジャズを巧みに融合させたガーシュウィンのオペラ《ポーギーとベス》から編まれた交響組曲《キャットフィッシュ・ロウ》に振り付けられる。この音楽にのせて、歌舞伎の祖であるお国と名古屋山三、ふたりの男女を軸にジャズでかぶき踊りを演ろうというのだ。壽輔師いわく「主演には、お国の魂のなかに山三の霊がとりついてしまう、という二役をしてもらおう」とのこと。

──その難しい主演は、雪組トップスターを経て専科で活躍する男役スター・轟悠に托される。はじめ参加を悩んだという轟も「このような機会は二度とやって来ないのではないか、今だからできることはある、と信じております」ときっぱり語る。「私は3歳から日本舞踊をやっておりました。6歳から花柳流で…宝塚受験の時に、得意なものは“日舞”としか言えなかった私です。宝塚に入り、壽輔先生には数多くの作品を手がけていただき、本当に変わらない宝塚への愛情を感じております。…いま宝塚歌劇百周年を迎え、先輩がたの創られて来た歴史を次へ受け継ぐもののひとりとして、今回のステージに立つことは、私にとりましても宝塚にとりましても、深い意味があるものと信じております」

轟悠に40名の日本舞踊家──宝塚と日本舞踊とジャズが出逢うところに、歌舞伎のエネルギーが宿る。振付は宝塚で活躍する若央りさ。

「ショウでは女役を演ったことはあるのですが、男役を長年やっておりますので…」と轟も微笑みながら「今回はお国から山三への早替わりという役を仰せつかっておりますので、“ザ・男役”という感じにならないように(笑)できたらと思っています。ジャズは宝塚でもたいへん馴染み深いもの。今回、東フィルさんの音の厚さのなかで踊れるのも醍醐味のひとつです」

他の作品にも、総合演出・花柳壽輔の思いが込められている。──戦後来日したアメリカの名バレエ・ダンサー、ノラ・ケイが踊る《ライラック・ガーデン(リラの園)》[チューダー振付の名作だ]を観て感動した壽輔師、ぜひ日本舞踊で…と温め続け、遂に今回取り上げることになった。

チューダー版と同じく音楽はショーソンの《詩曲》。バレエでの物語を、明治時代「鹿鳴館の頃に設定いたしまして、4人の男女の愛の葛藤を描く《ライラックガーデン》を演ることにいたしました」。愛しあいながらやむなく離されてゆく恋人たち…その複雑な関係と心情を日本舞踊がこまやかに描くだろう[五條珠實振付]。

また《葵の上(源氏物語より)》[藤蔭静枝振付]は、光源氏の正妻でありながら仲も冷めている葵の上、葵祭での車争いをきっかけに六条御息所の生霊に苦しめられ…という『源氏物語』のエピソードを題材にするもの。壽輔師も《ザ・カブキ》で共に仕事をした黛敏郎の音楽に振り付けられる。

演奏は、ヨーロッパ各地のオペラでも活躍する新進気鋭の指揮者、園田隆一郎と東京フィルハーモニー交響楽団。「東フィルさんは、舞台で起こっていることに繊細で研ぎすまされた感覚を持っているオーケストラです」と園田も語る。「舞台上で少しきこえる足音やちょっとした息づかいみたいなものにも、指揮者と一緒に繊細に寄り添っていこうとする柔軟さがある。演奏会の最後を飾ってもまったく遜色ない聞き応えのある曲が並んでいる今回のプログラム、しっかり演奏して皆さんを支える気持ちでやれればいいなと思います」

──さまざまな女性の情念、その美しく焔たつ魅力をめぐるような演目が並ぶ公演だ。その意欲にふさわしい豪華ゲスト陣と日本舞踊家、クラシック音楽家たちの織りなす夢幻の世界は、洋の東西も古今も遥かに超えてゆくだろう。壽輔師も「共通点を見出そうとすることも大事ですが、違う文化がどのように合体してどのような結果が出るか、これはやってみないと分からない」と力強く語っていた。実りの凄さを楽しみに待つ事にしよう。



東京文化会館 舞台芸術創造事業 日本舞踊×オーケストラVol.2



12/13(土)18:30開演
12/14(日)15:00開演
会場:東京文化会館 大ホール
構成・演出:花柳壽輔
監修:植田紳爾
演奏:園田隆一郎(指揮)東京フィルハーモニー交響楽団

○葵の上(源氏物語より)
音楽:黛敏郎「BUGAKU(舞楽)」より第2部、「呪」
振付:藤蔭静枝
出演:市川ぼたん、花柳寿楽、藤間恵都子、花柳大日翠、坂東三信之輔 他 群舞20名

○ライラックガーデン
音楽:ショーソン「詩曲」
振付:五條珠實
出演:藤間蘭黄、水木佑歌、花柳源九郎、尾上紫 他

○いざやかぶかん
音楽:ガーシュウィン『ポーギーとベス』組曲より 「キャットフィッシュ・ロウ」
振付:若央りさ振付補:花柳達真
美術:横尾忠則
出演:轟悠 他 総勢41名

○パピヨン
音楽:ドビュッシー「夜想曲」
振付:花柳壽輔
衣裳:森英恵
出演:花柳壽輔、麻実れい

○ボレロ
音楽:ラヴェル「ボレロ」
空間構成・振付:アレッシオ・シルヴェストリン
振付:花柳輔太朗
出演:吉田都、日本舞踊家男性群舞36名
美術:堀尾幸男
照明:沢田祐二
舞台監督:菅原多敢弘

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