トップ > 「THE FLOWER+THE RADIO」 : Fernando Kabusacki

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掲載: 2007年11月29日 23:00

更新: 2007年11月29日 23:00

文/  intoxicate

ROVO、ボアダムス、Buffalo Daughter、UA、フアナ・モリーナ……東京とブエノスアイレスを繋ぐキーパーソン、世界中のアンダーグラウンド・シーンとコミットする最重要人物によるカラフルな2枚組40曲の音絵巻!

Intd101213_a_2 フェルナンド・カブサッキ(Fernando Kabusacki)
『THE FLOWER+THE RADIO』
intd-1012/13 
¥3,000(tax in)
2007/4/19 on sale



Musicians:
・Fernando Kabusacki: Electric guitar, guitar synthesizer, guitar loops, Kaoss pad, A-Station, drum programming and vocals
・Matias Mango: keyboards
・Mono Fontana: keyboards
・Maria Eva Albistur: electric and upright bass, vocals
・Fernando Samalea: drums, balafon and percussion
・Uchihashi Kazuhisa: daxophone
・Francisco Bochaton: voice
・Charly Garcia : vocals and keyboards

「THE FLOWER+THE RADIO」に寄せられたコメント

これは傑作だ! と断言しましょう。
世界で最も好奇心の強い音楽家、カブサッキのアルバムを聞く度に「そうそう、俺もそう思っていたんだよ」と、シンクロニシティーを感じる事ばかりです。
今作はとてもオープンで、しかし密度の高い内容だ。

勝井祐二(ROVO)
http://www.katsuiyuji.com/
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「花が、花びらが、1まい1まいほどけて、咲いていく、あま~いあま~い、蜜のような時間を与えてくれました。」

YOSHIMI(BOREDOMS,OOIOO,SAICOBABA)
http://www.commmons.com/boredoms/
http://ooioo.jp/
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まるで、どこか遠い国の列車に乗って、車窓から移りゆく景色をゆったりと眺めているような気持ちにさせてくれる音でした。

片寄明人(Great3, Chocolat & Akito)
http://www.great3.com/akito/
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カブサッキの音を聞いていると、「ああ音楽って楽しくやらなきゃ」という当たり前の事を思い出させられる。
ありがとう。

鬼怒無月
http://mabo-kido.hp.infoseek.co.jp/
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ジャケットを見たその瞬間に試聴機に手が伸びて、一瞬聴いて即買いしたのが傑作"The Planet"。これがどこの国の人でなんて読むアーチストなのかも知らないままさらに彼のアルバムを探し、そのアニメ映像も集め・・・と気が付いたらこの名前を見れば音を聴く前にゲットし続けてきてしまった。この人がやってれば間違い無い、っていうアーチストが稀にいるが、確実にその一人。毎回毎回その音楽性の幅の広さと「奏でる」サウンドのクオリティに驚かされ、そしてあの人柄と物腰そのものが音に表れてくるそのキャラクターと心地良さ。この2枚組もやっぱりまたさらにその幅の広さと心地良さが加速度化している。次作も出たら聞く前に買っちゃうんだろうなぁ。

沼澤尚
http://www.numazawatakashi.com/
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「ポップってなんだろう」と思わせる音楽や映画に時々出会いますが、そんな意味でフェルナンドの新作はとても気に入っています。やっぱり異国のポップは違う、違うのになにか共感するというわけのわからない気持ちになります。ヴォーカルのない曲をおもわず口ずさみたくなるのは彼の演奏が常に歌っているからだと思います。また、 いっしょに歌わせてくださいね。よろしくお願いします。

ユウジ・オニキ
http://www.yujioniki.com/
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「THE FLOWER + THE RADIO」によせて
TEXT:土佐有明

 もしもこの男の尽力がなかったら、日本でアルゼンチン発の新たな音楽がここまで注目されることはなかっただろう。「この男」とはもちろん、本作の主役であり、いわゆる“アルゼンチン音響派”の旗頭と目されるギタリスト、フェルナンド・カブサッキのことである。彼の飽くなき情熱と果敢な行動力、そして音楽家としての類稀なる個性なくして、昨今のアルゼンチン音楽に対する日本人リスナー/ミュージシャンの関心の高まりは有り得なかったと断言できる。過去に5度の来日を果たし、日本人ミュージシャンとのセッション・アルバムを3枚リリースしているカブサッキだが、ソロ・アルバムとしては意外にも本作が国内盤初登場となる。まずは、そのバイオグラフィーを簡潔に記しつつ、彼がいかに日本の音楽シーンと連携を計ってきたのかを、ここで再確認しておこう(以下に記したカブサッキの発言は、すべて筆者が行ったインタビューからの引用)。
 フェルナンド・カブサッキは1965年、ロサリオ生まれ。祖父はリトアニアからの移民だったという。幼少の頃からデヴィッド・ボウイ、トーキング・ヘッズ、クラッシュ、クラフトワーク、スペシャルズ、ディーヴォ、バルトーク、ザ・フー、ブライアン・イーノなどを聴き漁っていたが、特にキング・クリムゾンのロバート・フリップからの影響は絶大だった。フリップに会いたい一心で渡英したカブサッキは、アポなしで彼のオフィスを訪れ、フリップ主宰のギター・ワークショップに参加。ここで多くの技術や哲学を習得した彼は、やがて同教室のインストラクターを務め、フリップのツアーに帯同するまでになる。その後はアルゼンチンの国民的ロック・スターとして名高いチャーリー・ガルシアのサポートを務めたり、ブラジルの奇才エルメート・パスコアル、リヴィング・カラーのヴァーノン・リード等と共演。ギター・トリオのロス・ガウチョス・アレマノス、無声映画に合わせて架空のサントラを演奏するナショナル・フィルム・チェンバー・オーケストラ、プログラミングされたビートを基調とするフトゥーラ・ボールドでの活動と並行して、98年からはソロ・アルバムの制作にも着手。これまでに5枚のソロ作を残している。
 また国内では、マリア・ガブリエラ・エプメール(故人)、モノ・フォンタナ、サンティアゴ・バスケス、アレハンドロ・フラノフ、フェルナンド・サマレア、フアナ・モリーナといった面々と密接なパートナーシップを構築。ユニオン的な動きを見せる彼らの作品が、山本精一や勝井祐二、バッファロー・ドーターをはじめとするミュージシャンの共感を呼び、ここ日本で“アルゼンチン音響派”なるタームと共に認知されているのは、もはや周知の事実だろう。
 そして02年、カブサッキはフアナ・モリーナのサポートとして、アレハンドロ・フラノフとともに初の来日を果たす。その後フアナとは袂を分かつことになるものの、即興を得意とする柔軟なプレイ・スタイル活かし、その後も日本人ミュージシャンと数々のセッションを敢行し、作品としてリリースしてゆくことになる。03年の2度目の来日では、山本精一、勝井祐二、鬼怒無月、芳垣安洋、岡部洋一、沼澤尚とセッションを行い、翌年『KIRIEI/カブサッキ東京セッション』としてリリース。04年にはその発売記念ライヴのために来日し、関西では、後に『The Ten Oxherding Pictures』として発表される日本人ギタリスト3人とのセッションも行った。05年には山本精一、勝井祐二がブエノスアイレスを訪れ、カブサッキ、アレハンドロ・フラノフ、サンティアゴ・バスケス、モノ・フォンタナと2日間で合計10時間にも及ぶセッションを敢行。これは後に編集を施され、『Chichipio ブエノスアイレスセッションVol.#1』『Izumi ブエノスアイレスセッションVol.#2』の2枚に結実することになる。06年7月には『Izumi』のリリースに合わせて、カブサッキ、フラノフ、バスケスが揃って来日。ROVOのメンバーとセッションを行った他、UAとの共演もこなし、その音楽的ポテンシャルの高さを見せつけた。また07年1月には5 度目の来日を果たし、ギタリストとしてアルバムにも参加していたバッファロー・ドーターとの共演をはじめ、またしても複数のセッションを行っている。
 さて、本作はそんなカブサッキの約2年ぶりとなる通算6枚目のソロ・アルバムだ。メールで本人に確認したところ、制作にあたって事前にコンセプトなどはなく、日記をつけるようにレコーディングは進められていったそうだ。ちなみに、根っからのインプロヴァイザーである彼のレコーディングは「即興で曲を作りながら同時に録音もしてしまう」というもので、「その時の気分や感情に忠実に作り、何度もやり直すことはしない」という。「事前に何も考えなくても、スタジオに入り、ギターを手にとってコンピュータのスイッチをオンにすれば、自然とアイディアが湧いて来る」のだそうだ。そうした制作方法ゆえ、2年間で録り貯めたマテリアルは膨大な量に及び、必然的に2枚組という形態になった。なんでも、余りにも曲数が多いため収集がつかなくなり、盟友フェルナンド・サマレアがストックの中から1枚にまとめたのが『THE RADIO』であり、残りの音源をカブサッキが『THE FLOWER』に仕上げたらしい。更にはこの2枚にも入りきらなかった音源がまだ相当数あるそうだから、いつか陽の目を見る機会もあるかもしれない。
 ところで、クレジットをご覧頂ければお分かりかと思うが、本作にはこれまでになく多くのゲスト・ミュージシャンが彩りを添えている。御大チャーリー・ガルシアをはじめ、カブサッキ言うところの「音楽的兄弟」であるフェルナンド・サマレア、「アルゼンチンでは数少ない、英語で歌うことのできる素晴らしいシンガー」だというマリア・エバ・アルビストゥール、本作と同時に新作が国内盤リリースされるモノ・フォンタナ、そしてブエノスアイレスでは共にライヴも行った内橋和久等々。皆、気心知れた馴染みの面々ばかりであり、「録音に際して参加メンバーに指示は一切出さなかった」という。
 「このトラックに合わせて君が正しいと思うプレイをしてくれ、と言うだけなんだ。例えば、チャーリー・ガルシアに向かって“こんな風に弾いてくれよ”とは言えないだろう? だって彼は天才なんだから! 彼らにはそれぞれのカラーがあり、そのカラーがこのアルバムの基調を成しているんだ」
 なお、特に意図したわけではないそうだが、アルバムの音楽性は、アレンジが多彩でビートが際立った『THE RADIO』と、彼のアブストラクト・サイドを照射する『THE FLOWER』とでは、色調が異なるように思う。サンプラーや各種エフェクターを駆使した彼のソロ・パフォーマンスに幾度となく感銘を受けてきた筆者としては、『THE FLOWER』のほうがライヴの感触に近く、彼のパーソナリティーを直に反映している印象を受けた。特に白眉と言えるのが、ヴィム・ヴェンダースのロード・ムーヴィーにもマッチしそうな、哀切滲む詩情豊かな旋律。アニメや無声映画に音楽をつけることをライフワークとしてきたカブサッキだけに、その楽曲は映像との親和性が非常に高い。機会があればぜひ映画のサントラを、と切望しているのは筆者だけではあるまい。
 最後に、気になるカブサッキの今後の予定だが、アレハンドロ・フラノフ、サンティアゴ・バスケス、マリア・エバ・アルビストゥールとのスーパー・バンド、イマーンがいよいよ始動するとのこと。実はこのユニット、筆者が監修したコンピレーション『トロピカリズモ・アルヘンティーノ』に世界初音源を提供し、それがきっかけで停止していた活動を再開させたという経緯がある。数ヶ月以内にはレコーディングを開始するそうだから、作品が届くのを楽しみに待ちたいと思う。もちろん、日本人ミュージシャンとの交流もこれまで通り、いやこれまで以上の親密さで続いていくことだろう。