トップ > JAZZ IT UP! 菊地成孔
狂った律動
菊地成孔のサックスとヴォーカル、ラテンとアフロを組み合わせたパーカッションにふたり、ピアノとベース。それにグランドハープにバンドネオン。さらに弦楽四重奏を加える。総勢11人の楽器が同時になったとき、その音響の総体はいったい何にもっとも似ているのだろう。ペペ・トルメント・アスカラール(以下ぺぺ)の音楽成分は、その体組成レベルで混沌を極める。
メキシコの画家、ディエゴ・リヴェラの壁画を引用した前作『記憶喪失学』のアートワークのように、ぺぺの音楽は、あらゆる音色が並列にきらめき、あらゆるジャンルの律動が、ひしめき合う。ジャズ、ルンバやサルサを司るアフロポリリズムがあらゆるジャンルの音楽の伝統とニュアンスを飲み込み、吐き出すその往復運動ですら、ぺぺサウンドの律動の一部なのだ。
ロシアのフォークロアを飲み込み、独特の律動をバレエダンサーの動きに重ねたストラビンスキーや、ニジンスキーのジャンプ、今年、創立100年を迎えたバレエリュスのエキゾを、うっすら予感させたいくつかの楽曲は、今回、いっそうその輪郭と律動の激しさの度合いを増した。さらには、ソプラノ歌手という、ぺぺのこれまでの佇まいからすれば、異形の存在ですら、堂々とアンサンブルに溶け込み、降臨するかのごとく、ヴェルカントを響き渡らせる。ブラームスのように大きな弦の響き、雅楽のような律動を奪う響き、どれもが、それぞれ時間的、空間的な距離を主張する異質な要素の総体。さらにそれがパンキッシュなスピードで揺れ、動く。
強さこそが、ぺぺと、菊地の音楽の印象のすべてかもしれない。強さを生むフィジカルなポテンシャルの高さこそが、菊地の魅力、だとすれば今回の、サルサ、バレエ、アリアが投げ込まれた地獄のように狂った音響の総体こそが、ぺぺであり、菊地のジャズなのだろう。
TEXT:編集部
New York Hell Sonic Ballet
菊地成孔とペペ・トルメント・アスカラール
[ewe records EWCD-0167] 10/28発売
*ライヴ・インフォメーション*
『菊地成孔とペペ・トルメント・アスカラール』
11/16(月) 名古屋ブルーノート
11/17(火) 京都KBSホール
『菊地成孔オーチャードホール2009』
12/4(金)ペペ・トルメント・アスカラール オーチャードホール
12/5(土)ダブセクステット オーチャードホール
http://www.kikuchinaruyoshi.com/