映画館ライヴやお笑いライヴなど、凄まじいバイタリティで広く活動するシンガー・ソングライター大森靖子のファースト・フル・アルバム。女の子みんなに使えて自分だけに使えない魔法があることを悲しみ、遊びながら音楽の魔法を手に入れる道程を表現した超大作。ポップでキュートなのにどこかヒリヒリする、カラフルなのにどこかくすんでみえる、等身大の想いが詰まった一枚。 (C)RS
JMD(2013/06/18)
資料によると、昨年のミニ・アルバム『PINK』に入っていた"パーティードレス"は〈若い女が自分の性のことを赤裸々に表現する系の演出は否応無しに大勢にひっかかるだろうと安易なことも想定した〉のだそう。実際にそうした佇まいの女性アクトが注目を浴びる状況も顕在化するなか、今回のフル・アルバム『魔法が使えないなら死にたい』はさらに身体中のあちこちの裂け目を開いてみせるような内容に。不安定なエレポップ"新宿"のアレンジをカメダタク(オワリカラ)が担当したほか、ギターなどで三輪二郎や小森清貴(壊れかけのテープレコーダーズ)、関口萌(Paradise)らが助力し、前作と同じくマスタリングを中村宗一郎が担った全14曲は、シアトリカルな諧謔性と率直な自虐性が境目なくアコースティックな感触に包まれています。ラップ調の"音楽を捨てよ、そして音楽へ"にように露悪的な劇物もいいですが、どこか中島みゆきを想起させる歌い口がカッコイイ"あたし天使の堪忍袋"や"夏果て"、穏やかな"歌謡曲""秘めごと"などのシンプルな仕上がりもまた魅力的。なので……15年前は誰も戸川純を引き合いに出さなかったんだから、いまさら15年も前のこと持ち出すなんて野暮だぜ、とか思いますよ。傑作。
bounce (C)出嶌孝次
タワーレコード(vol.353(2013年3月25日発行号)掲載)
浴室のなか、毒々しいピンク色の蛍光塗料にまみれてこちらに目線を向ける童顔の女の子。そんな〈血まみれ〉を連想させるヴィジュアルが衝撃だった初のEP『PINK』から1年を待たずに、大森靖子のファースト・フル・アルバム『魔法が使えないなら死にたい』がリリースされた。今作のアートワークは見ての通り。初期の椎名林檎やCoccoを引き合いに出してのこれまでの評を逆手に取ってみせた彼女だが、そんな過激さとは裏腹に、本作は痛々しいほど真っ直ぐに歌へと向かったシンガー・ソングライター作品だ。アコギ片手に危なっかしく口ずさまれる〈スカートから零れるブルース〉たち。やり場のない孤独感も女の性も生々しくさらけ出した歌たちは、どこかグロテスクで、不思議とポップだ。歌いはじめた理由を〈ノスタルジーに中指たてて/ファンタジーをはじめただけさ〉とラップ(!?)し、〈音楽は魔法ではない〉と告げる"音楽を捨てよ、そして音楽へ"から、〈音楽の魔法を/手に入れた西の魔女4:44/つまらん夜はもうやめた〉と静かな激情を滲ませるトーキング・ブルース"魔法が使えないなら"までの全14曲。異様に敏感な感受性が掃きだめのなかに見い出す〈本当のこと〉を託した歌は、聴き手の心をビリビリと引き裂き、そのうえで、バラバラになった欠片を優しく包んでくれることだろう。
bounce (C)土田真弓
タワーレコード(vol.353(2013年3月25日発行号)掲載)