この人の声を世に送り出す手助けをしなきゃいけないと宇多田ヒカルに言わしめたシンガー、小袋成彬のデビュー作。フランク・オーシャンに代表される海外の現行インディーR&Bから影響を受けたトラックや伸びやかなファルセットヴォイスを駆使したヴォーカルスタイルは多分にR&B的だが、同時に極私的な歌詞の内容やほとんど弾き語りのようなトラックから感じられる内省感はフォーク的。かつて小坂忠がそうしたように、新しい形でのフォーク+R&Bの融合。
(C)新宿店:TANAKAMAN
タワーレコード(2019/06/06)
現在最もその動向が注目される作・編曲家、サウンドプロデューサーである小袋成彬が宇多田ヒカルをプロデューサーに迎えソロアーティストデビュー。"この人の声を世に送り出す手助けをしなきゃいけない"と宇多田ヒカルに言わしめたシンガーとしての才、固定観念を吹き飛ばす挑戦的なサウンドデザイン、そして文藝の薫り高き歌詞。それらすべてによって紡がれるものがたりは、雪解け水のような透徹さと清廉さに溢れる。よどみなき筆致によって来たるべき時代のJ-POPを鮮やかに予見させる処女作。 (C)RS
JMD(2018/01/18)
宇多田ヒカルの全面プロデュースが話題を呼んでいるシンガー・ソングライターの初作。Tokyo Recordingsの盟友Yaffleを迎え、過去にOBKR名義でプロデュースしてきた作品に通じるモダンなR&Bを基調に、管弦楽器を重用したアレンジはスリリングかつ重厚。しかし、本名を名義とした今作の肝は、やはり当人の歌声だ。どこか透徹とした眼差しを感じさせつつも、ファルセットを交えた歌の表情は非常に痛切で、聴き手に強く訴えかけるものがある。"Selfish"などから伝わる歌謡性も含め、平井堅を連想する人は多いと思うが、感覚としては同世代の米津玄師や尾崎裕哉、あるいはサム・スミスやエド・シーランの如き痛みと癒しの同居した作品だと言っていいだろう。歌詞は私小説的な内容と思われ、タイトルにも表れているように文学性が高く、一冊の小説を読み終えたような充足感と、そのぶんの心地良い疲労すら感じる。2018年を振り返ったときにひとつのメルクマールとして刻まれる作品であることは間違いない。
bounce (C)金子厚武
タワーレコード(vol.414(2018年4月25日発行号)掲載)