Orfeoレーベルから発売中の1954年8月9日のバイロイトでのフルトヴェングラーの『第九』。これを新たに発見されたアセテート盤から復刻したCD。いわゆる『ルツェルンの第九』が8月22日で、演奏時期は近いが演奏内容は正反対。バイロイトは火を吹くような魔性の演奏として知られる。その音質だが第1楽章のティンパニの生々しさが格段に良くなったと感じた。劇場の響きが感じられるとともに、オーケストラが近くに聴こえて緊迫の度合いがより伝わる。後半になるほど音が良くなっていて、第4楽章の冒頭など凄まじい迫力が聴き取れる。フィナーレの熱狂も解像度が増している。
intoxicate (C)雨海秀和
vol.166(2023年10月10日発行号)掲載(2023/10/10)
世界初!アセテート盤から復刻!「ルツェルンの第九」と並ぶ
フルトヴェングラー最後の第九、エピタグラフから鮮明な音質CD登場!
『ベートーヴェンの第九を彼みたいにやった人はいない。そうして50年たった今、これまでお前の聴いたものの中で一番第九らしい第九の演奏は?と聞かれたら、やっぱり私はあの年(54年)バイロイトで聞いた第九をあげるだろう。』~2003年9月17日 朝日新聞『吉田秀和 音楽展望』
『私が彼から受けた最も深刻な感銘は・・・これも前に書いたことだが・・・バイロイトできいたベートーヴェンの第9交響曲の演奏から来たものである。あれは本当にすごかった。その後、私も「第9」を何回、何十回きいたか知れないが、あの時以上の「第9」は、ついに、きいたことがない。フルトヴェングラーにとって「第9」はあらゆる交響音楽の王者、至高究極の作品だったように、私にも、あの「第9」はあらゆる管弦楽演奏会の経験の王者だった。』~吉田秀和著 レコード芸術・別冊「フルトヴェングラー」音楽之友社1984年刊
『フルトヴェングラーは、その後、ザルツブルクで「ドン・ジョヴァンニ」と「フライシュッツ」を、バイロイトで「第9」をきいた。ことに「第9」は感心した。第3楽章がよかった。第4楽章の歓喜の主題がバスで出た時はずいぶん遅く、それが反復されるたびにだんだん速くなり、次第に盛り上がっていって、合唱にもってゆくところは、なんともめざましいばかりだった。』~吉田秀和著「音楽紀行」新潮社1957年刊
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キングインターナショナル
発売・販売元 提供資料(2023/08/21)
フルトヴェングラーの第九といえば、1951年のバイロイト音楽祭再開記念公演でのものがあまりにも有名ですが、3年後の54年の夏にも巨匠はバイロイトでベートーヴェンの第9交響曲を指揮していました。「ルツェルンの第九」(54年8月22日ルツェルン音楽祭公演)の半月前、亡くなる3か月前のことです。吉田秀和からも絶賛された至宝の第九ですが、オリジナルの放送テープ(演奏会のラジオ放送用録音)はすでに消失されているようで、音質劣悪の海外盤、プライヴェートCDが90年代に出回った後、2012年にORFEOが遺されていた「状態の良くない」テープを最新のデジタル修復技術で復刻してCDを発売、大きな評判を集めたのはまだ記憶に新しいところです。今回、エピタグラフが本録音のアセテート盤からの復刻音源を入手!!キング関口台スタジオで丁寧かつ入念なマスタリングを施してCD化。盤復刻にともなうスクラッチ・ノイズこそありますが、高域を損なわないように過度なノイズ・リダクションはしていません。ORFEO盤より一枚ヴェールを剥がしたような生々しさがあります。従来に勝る鮮明(高域の伸び!)、良好音質のCDを"高音質CDの決定版"UHQCDにして発売。すべてのフルトヴェングラー・ファン必聴必携の名盤誕生!
今回の音源=アセテート盤について今回の音源はエピタグラフがアメリカの知人を経由して入手したアセテート盤からの復刻テープをデジタル・トランスファーしたもの。経年変化で磁気劣化が避けられないアナログテープに比べ、記録保存用に当時最適であったアセテート盤が50年代後半にアメリカで作られ、この知人は個人的に保有していたとのこと。51年のバイロイト、54年のルツェルンのときと違い、EMIの録音スタッフはこの日の収録には関与しておりません。録音状態は万全ではなく、アセテート盤の復刻やアナログテープへのコピーに伴うスクラッチ・ノイズやテープヒス、さらにはオリジナル・テープ収録の際にテープデッキの不具合で生じたと思われるワウ・フラッター(微妙なテンポの揺れ)も数か所に散見されますが、スクラッチ・ノイズの軽減化と第1楽章のピッチ修正以外はあえて手を加えておりません。ORFEO盤のライナーノーツによると使用した素材テープには「強烈な雑音やそれに被さっている変調雑音、目立つハム音、歪み、バリバリ音、短い音飛び」があったようですが、そこまでの不良箇所は認められませんでした。なお、このCDにはORFEO盤には含まれていない終了後の拍手の音(一瞬)も収録しています。
フルトヴェングラー最後の咆哮ともいうべき54年バイロイトの第九最晩年にもかかわらず、熱気と覇気を充分にみなぎらせ、最後まで緊張感を持って、圧倒的な迫力で壮絶なクライマックスに導いています。随所に見せるティンパニの強烈連打、終結部における急激なテンポ変動、火のように燃える激しさ、燃焼度は51年盤(リハーサルでなく本番での演奏)をも凌ぎ、枯淡の境地を見せている「ルツェルンの第九」にはないところです。
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キングインターナショナル
発売・販売元 提供資料(2023/08/21)
確かに録音はよいに越したことはない。しかし音楽は「こころの耳」で聴くものであることもまた確かな真実である。
思えば私がはじめてフルトヴェングラーのバイロイト1951の第九を聴いたのは、ラジオのAM放送であった。それも番組の時間の関係で1楽章ずつだった。解説は藁科雅美氏だった。そして我を忘れるほど感動した。雑音だらけのラジオの音と今回のアセテート盤と比べたらどちらが音がいいのか。
もう1度言う。録音はいい方がいい。でもひとは「こころの耳」でも聴くのだ。
フルトヴェングラーの創り出す音は不思議なものだ。それはあらゆる困難を乗り越えて我々のこころに届くー間違いなく「こころの音」だ。
フルトヴェングラーは「感動はひととひととのあいだにある」と言った。「こころの音」はひととひととの間をつなぐものだ。
そういうことをこのアセテート盤は思い起こさせ教えてくれる。