今世紀で最も魅力的なソングライターの1人、スフィアン・スティーヴンスの新作が完成。生涯の感情が織り込まれた傷と希望の情景『ジャヴェリン』、リリース。
Asthmatic Kittyは、Sufjan Stevensのニュー・アルバム『Javelin』をリリースする。
『Javelin』は、2020年の『The Ascension』に続くヴォーカル入りのソロ・アルバムで、2015年の『Carrie & Lowell』以来となる完全なシンガー・ソングライター・モードでの作品だ。アルバム全体、また、収録される1曲1曲の中にまでも、Stevensの25年のキャリアが完全に詰まっており、彼のこれまでの全てのアプローチの架け橋となる傑作だ。
『Javelin』は、時折、大所帯でのアルバム制作のような雰囲気を持っているが、それは明らかに違う。確かに、70年代のロサンゼルスのスタジオの豪華さが感じられるところもあるが、ここにあるほとんど全てのサウンドは、Stevensが1人で自宅において作り上げたものだ。また、adrienne maree brown、Hannah Cohen、Pauline Delassus、Megan Lui、Nedelle Torrisiといった親しい友人たちが多くの曲でハーモニーを奏で、Bryce Dessnerは「Shit Talk」でアコースティック・ギターとエレクトリック・ギターを弾いている。もちろん、Neil Youngが優しく神秘的なアルバムのクローズ「There's A World」を書いた。
The New York Timesが「絶望の叫びと救済への祈り」と絶賛した『The Ascension』では、華麗でありながら切迫したエレクトロニクスを駆使して、Stevensはその瞬間を整えた。対して『Javelin』は、セルフポートレートのように始まり、細部まで描かれていながらもプレインである。これは、Stevensにとって最も親密な作品であり、『Seven Swans』や『Carrie & Lowell』を思い起こさせる。
発売・販売元 提供資料(2023/08/21)
『Javelin』の曲はどれも小さく始まる。ポツポツとしたアコースティック・ギターの音、蓋をしたピアノのパタパタという音、滝のようなキラキラしたアルペジオ。これらの小さな音は、『Javelin』におけるSufjan Stevensの告白の呼びかけであり、親友に送る招待状だ。そしてもちろん、今世紀最も魅力的なソングライターの1人であるSufjanのキャリアを貫く、ソフトでありながら力強い魅力的な歌声が、そこには存在する。その声は、まるでこれから分かち合おうとしている傷と希望の情景そのものが、何十年にもわたりSufjanに刺激をあたえてきたかのようだ。『Javelin』では、音楽的な広がりと感情的な広がりが対になっており、この42分間だけでなく、1曲の中にも一生分の感情が織り込まれている。
Sufjanのエモーショナルな世界観は『Javelin』の隅々にまで浸透しており、アルバムに付属している48ページのアート・エッセイ集は圧巻である。綿密なコラージュ、カットアップされたカタログ・ファンタジー、パフペイントされたワード・クラウド、反復するカラー・フィールドの数々により、Sufjanは一見カオスに見えるものから秩序を構築し、その逆もまた然りである。その中ほどには、面白かったり、悲劇的だったり、痛ましかったり、鈍感だったり、明確だったりする、Stevensによる10編の短いエッセイが収められている。そこから、彼自身、ひいてはこれらの楽曲を形成してきた愛と喪失を垣間見ることができる。『Javelin』では、あなたが最もよく知るSufjanが戻ってきた。Sufjanは、私たちが自分自身をより完全に見ることができるよう、苦悩しながらも美しい彼自身をこの作品で垣間見せてくれるのだ。
発売・販売元 提供資料(2023/08/21)
『Carrie & Lowell』以来、13年ぶりとなるシンガー・ソングライターな作風に涙腺が緩んでしまった。優美なオーケストラ・アレンジとエレクトロニクスによるパンチの効いた音響を融合させた集大成的なサウンドでありつつ、真ん中に据えられているのは、心の柔らかい部分に眼差しを向けるかのような歌心。主役の健康状態を耳にしたいま、本作を聴くことは祈りのようでもある。
bounce (C)田中亮太
タワーレコード(vol.479(2023年10月25日発行号)掲載)