急激に変わりゆく現代、積み重ねた膨大な記憶の中から、人は想い出として抱え、未来へと向かうのか。
激しさと繊細さが同居する唯一無二のスタイルで世界を魅了する英国が誇るモンスター・ロック・アクト、ビッフィ・クライロ。繊細なメロディ、壮大な音的混沌、怒涛のヘヴィネス、そして圧巻のコーラスで聴くものを魂震えるカタルシスへと導く、約4年振りのスタジオ・アルバム『FUTIQUE』完成!
激しさと繊細さが同居する唯一無二のスタイルで世界を魅了する英国が誇るモンスター・ロック・アクト、ビッフィ・クライロ。1995年、スコットランドで活動を開始した、ギター&ヴォーカルのサイモン・ニール、ベースのジェイムス・ジョンストン、そしてドラムのベン・ジョンストンからなるこの3人組は2001年にデビューして以降、オルタナティヴ・ロックからポストロックからの影響を受けた独自のスタジアム・ロック・サウンドとその高い技巧性に裏打ちされた熱烈なライヴ・パフォーマンスで今や全英を代表するロック・アクトとして確固たる存在感を放っている。その彼らが2020年の全英No.1アルバム『A CELEBRATION OF ENDINGS』とその姉妹作となる2021年の『THE MYTH OF THE HAPPILY EVER AFTER』以来となるスタジオ・アルバムをリリースする。
6月上旬にシングル「A Little Love」を発表した彼ら。生き生きとしたトーンに、ドラマティックなシンセサイザーの刺さるような音色、重厚感のあるグルーヴはバンドの代名詞とも呼べる激しさとメロディーの融合を際立たせながら、これまでの彼らのヒット曲を彷彿とさせる一度聴いたら忘れない、観客を大合唱へと導くコーラスへと繋がっていくこの曲は、あらゆる愛の形を祝い、また失ってから初めてその大切さについて気づかされることを歌う、まさしくビッフィ・クライロ流"愛の讃歌"と呼べるだろう。また同曲のミュージック・ビデオはセルビアのパフォーマンス・アーティスト、マリーナ・アブラモヴィッチの1977年パフォーマンス作品「Relation In Time」にインスパイアされたものであり、デヴィッド・バーンの「Social! The Social Distance Dance」を手掛けたSteven Hoggettの振付のもと、メンバー3人が自身の長く続いている関係性を動きで表現しているという。既にビッフィ・クライロはこの新曲をグラストンベリー・フェスティヴァルのぷらミッド・ステージでも披露しており、熱狂的な声と共に受け入れられたばかりだ。(1/2)
発売・販売元 提供資料(2025/07/04)
そして彼らの新作となる『FUTIQUE』。フロントマンのサイモン・ニール曰く、本作は"時間を超えて存在するアイディア、物、また関係性を探求した作品だという"。そして彼は聴くものに問いかけるのだ。
「我々は、何かをやる時、それが最後になることを意識することはない。そこに美しさと哀しさがある。あなたの『FUTIQUE』は何ですか?」
アルバム・タイトルの『FUTIQUE』に秘められているのは、我々の記憶に対する認識がデジタル時代に入り如何に変化していったのかということ。かつて人々は大切な想い出を写真のアルバムに保存していたが、今では人生のかなりの時代に亘って撮られた膨大な数のイメージがスマートフォンからあっという間に引っ張り出せるようになってしまっている。その事実からサイモンは若い頃から失ってしまった人や物に想いを馳せていたが、やがて別な考えへとたどり着いた:今彼自身が大切にしているもので、未来に懐かしむものがあるとすれば、それは何だろうか?この思想を刺激する考えは、彼が2023年のほとんどを費やしていた、彼のエクストリーム・メタル・プロジェクト、エンパイア・ステイト・バスタードのツアー中、ずっと温め続けられてきたという。その間、彼の頭を過ったのはバンドメンバーとのこれまでの軌跡だった(ちなみにビッフィ・クライロは結成以来同じメンバーで活動を続けている)。15歳の頃、控えめな期待と共に稚拙なニルヴァーナのカヴァーをガレージで演奏していた時代から、レディングやダウンロードなどの大きなフェスティヴァルでヘッドライナーを張ったときに、大観衆の海の前に演奏するまでに成長した姿だけでなく、3人の間でのジョークの掛け合いや長い会話、そしてつたない言葉よりも多くの事を伝えるを超えてきた無言のコミュニケーションなど、何よりも大切な小さな事柄などが積み上がり、今の彼らがあるのだ。勿論、そんな長い人間関係にもあるように、危機に瀕することもあった。しかしどんな時でも彼らは、3人を結び続けている深い絆と愛を時間をかけて大切に育てる必要があると気づかされるのであった。
常にビッフィ・クライロは世界と対峙し続けてきた。そんな彼らの新作『FUTIQUE』は、バンド自身の実体験に根差した語り口の作品であるにも関わらず、聴くものの心の琴線に触れてくる共感性の高いアルバムである。ゆく河の流れは絶えずして、しかも、もとの水にあらず。河の流れがどんどん早くなって行く現代、浮世の慌ただしさに追われ、今手にしているもののありがたさを見失いがちになっている人々にこそ、本作は心に響く作品となるに違いない。積み重ねた膨大な記憶の中から、現代の人は想い出として抱え、未来へと向かうのか。その答えは繊細なメロディ、壮大な音的混沌、怒涛のヘヴィネス、そして圧巻のコーラスで聴くものを魂震えるカタルシスへと導く、ビッフィ・クライロの最新作『FUTIQUE』にある。(2/2)
発売・販売元 提供資料(2025/07/04)
95年結成のスコットランドの3人組による10作目は、彼らにとって4枚目の全英No.1ヒットとなった。ロックンロール、ニューウェイヴ、バラード、グランジ、ポップ・ロックという振り幅をメロディアスなオルタナ・ロック・サウンドに落とし込んだ全11曲。そのなかで何がいちばんの聴きどころなのかと言えば、楽曲が持つアンセミックな展開だ。大観衆のシンガロングを想像しながら聴けば、気持ちがよりアガることは必至。掛け合いのコーラスには泣きも滲む。ラストを飾る"Two People In Love"では流れるようなピアノの音色と共に30年のキャリアに相応しい円熟味も印象づける。
bounce (C)山口智男
タワーレコード(vol.503(2025年10月25日発行号)掲載)