ブラジル稀代の天才、トニーニョ・オルタの新作

ブラジル音楽の美しき温床、ミナス・ジェライスを象徴する存在にして、クルビ・ダ・エスキーナをミルトン・ナシメントらと共に組成した稀代の天才、トニーニョ・オルタ。ブラジル国内に留まらす、パット・メセニーをはじめとする世界中のジャズ系ミュージシャンにも強い影響を与えたその音楽性は、今や一つのブランドとして確立していると言っても過言ではない。
そのトニーニョが、日本におけるボサ・ノヴァ/ブラジル音楽のオーソリティ宮田茂樹氏との共同プロデュースで挑んだレコーディング作品が国内盤で登場。
今回は、トニーニョの真骨頂であるギターとヴォーカルのみで、耳にした瞬間から心解き放たれるサウンドが魅力。レパートリーは、ジョン・コルトレーンのスタンダード・カバー“Giant Step”以外、すべてトニーニョの自作曲。その中に、本作のために書き起こされたトラックも数曲あり、いずれも彼が愛する日本、そして日本の朋友にちなんだハートフルなテーマを持ち合わせている点は大いに注目したい。
特にオープニングは興味深い。文字通り「新幹線」を歌ったトラックで、列車が疾走する様をトリッキーで滑らかなギター・カッティングで表わしたトニーニョ風サンバだ。乗り心地とスピードに感銘を受けたトニーニョ。童心を呼び起こさせたかのように、社内で流れる車掌のアナウンスを模して、沿線地名を日本語で綴っていく感覚は、まさに親日家トニーニョの姿を投影している。さらに、親交の深い邦人女性歌手. Nonie こと ノブエ・ナガフチと共演した3トラックもアクセント。中でも、トニーニョのキャリアを代表する傑作"BEIJO PARTIDO"でギター/ヴォイス・ワークが見事にシンクロした奥深い世界観は、本作のハイライトの一つだ。他に"INFINIT LOVE" "QUADROS MODERNOS" "MOCIDADE"と、トニーニョ屈指の趣のある名旋律を誇るレパートリーも、素晴らしいパフォーマンスを聞かせてくれる。
華麗なギター・テクニックとナチュラルなヴォーカルの妙...これは、90年代にトニーニョ・オルタの存在を高めた名作シリーズ「DURANGO KID」の流れを汲む、ピュアなエッセンスを完璧に抽出した仕上がりであることは疑いない。さらに、2012ラテン・グラミー最優秀録音賞にノミネートされているディレクター・ドゥダ・メロ(Duda Mello)による、ディープでクリアなサウンドを極限まで引き出したレコーディング・ワークも特筆。トニーニョ・オルタという才能による新たな足跡が、ここにまた一つ、永遠に刻まれる。
カテゴリ : ニューリリース
掲載: 2012年10月19日 14:58