ソフトタッチ、ニュー・アルバム『リビルド』発売記念インタビュー<前編>
写真左から 星野誠(Dr&Cho)、山田真一(Gt&Cho)、渡辺大介(Ba&Cho)、佐野史紀(Vo&Gt)
旧友である後藤正文氏(ASIAN KUNG-FU GENERATION)主宰レーベルのonly in dreamsから後藤正文氏、井上陽介氏(Turntable Films)プロデュースの元、11年ぶりのアルバム『リビルド』をリリースすることとなったソフトタッチ。
2016年ソフトタッチのメンバーが揃う機会があり、その様子をFacebookにアップしたところ、後藤氏から「何かあったら協力したい」というメッセージがあり、リリースの話へ繋がったという。
アルバム制作時の様子から、『リビルド』へ繋がる過去、そして『リビルド』から繋がる未来の話を聞いてみました!
text&photo:ササキ マサミツ
とりあえず、飲みました(笑)
──11年ぶりのアルバム完成おめでとうございます!タワーレコード新宿店での先行発売時、インストアも行い、かなり盛況だったと聞いています。反応はどうでしたか。
佐野史紀(以下、佐野)「よかったです(笑)。楽しんでもらえたのではないでしょうか。」
山田真一(以下、山田)「凄く盛況でした。」
星野誠(以下、星野)「盛り上がったと思います。」
──今回どのような経緯で11年ぶりのアルバムをリリースすることになったのでしょうか。
佐野「2016年にバンド・メンバーみんなで会う機会があり、そこでソフトタッチを再開してみようという話になりまして、その流れでアジカンのゴッチからそういう(レコーディングの)話があり、まあ音源を聞いてもらうのが最初だったのですけど、まず音源を聞いてもらって、アルバム制作の話をいただきました。」
──4人が集まった様子をFacebookにアップしたところ、後藤さんが連絡くれたそうですね。その時はどのような感じのメッセージだったのですか。
佐野「〈何かあったら協力したいな〉って言ってもらえて。」
──後藤さんの連絡を受け、具体的にアルバム制作までの過程はどんな感じだったのでしょうか。
佐野「とりあえず、飲みました(笑)そのとき話したのは〈最近どうなの?〉」っていう、みんなの近況でした。」
──昔の親交を温めつつ、アルバムを作るにあたってはどのようにやり取りが進んだのでしょうか。
佐野「自分が覚えているのは、そのあとゴッチのライヴを見させてもらって、終演後に具体的に〈いつぐらいから始めよう〉みたいな話をしましたね。」
──いつぐらいからレコーディングをスタートしましょうという話だったのですか。
佐野「17年の2月から制作を始めようと。」
──では最初のコンタクトからレコーディングが始まるまで結構時間が空いていたのですね。そのタイミングではどの程度アルバム制作の準備は出来ていたのでしょうか。
渡辺大介(以下、渡辺)「曲はできていたし、準備していたというわけではないけど、ライヴも2、3回やっていた後ではありました。」
──2月の段階でアルバム用の曲は何曲ぐらい作っていたのでしょうか。
佐野「もう、そろってましたね。」
──今作は過去作に比べて強くロックなサウンドが印象的でした。これは後藤さんたちと作業を進めるなかで、こういった方向になっていったのでしょうか。
佐野「サウンドを強いロック的なものにしようと明確に意識したことは無く、その現場、現場で気持ちいい音を構築していったら、こうなったって感じですね。」
──以前のサウンドでは、今作のような強いメッセージを受け止められなかったのではと感じます。サウンドの力強さがないと『リビルド』の歌詞に負けてしまう気がします。
佐野「そうですね。サウンドの話だと、明確に歌詞に寄り添うようにする意識もありましたし、言葉の持つテンションというか強さに、オケが並行して流れていくような世界観が作れれば、とも意識しました。」
──歌の力強さも耳を引きました。以前のソフトな歌唱法とは異なり、アタック感のある、歌唱ですよね。今作の力強いサウンドから引き出されたものなのでしょうか。
佐野「歌唱に関しては具体的なところだと、少しだけキーが下がったことが影響していると思います。そういうところで、力強いというか落ち着いた、シリアスな雰囲気が出たのかなと思います。」
総がかりで、音色をみんなで作っていくみたいな作業でしたね。
──その力強いサウンドを生み出した機材についてですが。
山田「ギターは自分のセミアコと建さん(アジカン)のレスポールをつかって、その他後藤君が用意してくれたエフェクターとかアンプとか試しながら録音していきました。」
──最近空間系エフェクターに目覚めたと聞きました。先日のライヴ終了後も久し振りに会ったアンダーフラワーの田中さん(※1)への第一声も〈空間系エフェクターに目覚めた〉でしたよね(笑)。
一同(笑)
山田「昔は、憧れのアーティストとかミュージシャンが空間系のエフェクターをつかっていなくて、それを目指していたのですけど、今回サウンドが変わったので、それにあわせたいなと。新しく始まったソフトタッチでは(空間系エフェクトを)使おうかなと。」
──いろいろなギターを試していかがでしたか。
山田「楽しいのはもちろん、普段弾いているギターではないのですごく良さも感じましたし…。まあ、欲しいなと(笑)。何かレスポールっていいなと。いろいろサウンドを試させてもらって、その上でいい雰囲気の中録音できました。プロデューサーの力添えがありがたかったです。」
佐野「自身のSGとゴッチのレスポールJr.を使用して。そうですね…。欲しいなって(笑)。アンプはゴッチのツインリバーブですね。いい音でしたね。」
山田「僕はMarshallとBadCatというアンプを使わせてもらって、音を作ったのですけど。結構ギターも借りたものが多くて、どの曲で自分のギターなのかちょっと覚えていないくらい、入り混じって。いろいろ試させてもらった(笑)。」
佐野「エフェクターもいろいろ持ち寄ってもらえて〈佐野君、これ使う?使う?〉〈使う、使う!〉って。全部とりあえず足元に置いて、試していきましたね。」
星野「総がかりで、音色をみんなで作っていくみたいな作業でしたね。」
渡辺「ベースは基本自分の楽器で。録音は基本ラインですね。DIだけアジカンの山田君のをお借りして。すごくいいDIでした。基本其のDI一発でそこで音を作ってという感じですね。」
星野「ドラムは自分のPearlのスタンダードメイプルの20年位前のセットとシンバル類は基本的にPaisteでハットは13インチなんですけど、曲によって一部重い雰囲気とか枯れた雰囲気が欲しい曲だけZildjianのKのライドとハットを使って。スネアに関しては自分のSONORとLudwigを持って行ったんですけど、あとはドラムテック三原さんからお借りしたPearlのブラス、その三種類を曲によってとっかえひっかえ演奏したので、どの曲がどのセットだったのか覚えてない感じ(笑)。あとはヘッドとチューニングを都度かえてテイストの違いを出しました。」
音源を聞いている人たちと、その音が鳴っている場を共有できる音楽というのを歌ってみたい
──みんながチームとなって一つの方向に向かっていった作業だったんですね。では、そこで生まれてきた楽曲について聞いていきたいと思います。一曲目の“リビルド”。出だしの歌詞「止まった時が動き出す」がこのアルバムを象徴するポイントの一つではないでしょうか。この歌詞は一曲目にするつもりで書いたのか、たまたま一曲目としてハマったのか。
佐野「作ったときはそういった曲(再スタートを意識した曲)として作って、曲順を考えた時にやはり一曲目がいいなと。そういった経緯でアルバムの一曲目になりました。」
渡辺「わりと満場一致で〈これ一曲目でしょ〉となった記憶があります。」
──曲中に入ってくるアタック感の無い音はE-BOW?
山田「そうです。この曲では後藤君がギターのスイッチングもやっていて。みんなで演奏したというか、創り上げた感じがあります。」
──そして2曲目の“希求”。こちらも非常に前向きな曲ですね。
佐野「何か気持ちいいシーンが循環するコードというのでしょうか。その中でどんどん変容していくような感じの曲があったらいいなと思っていて。」
山田「ダイナミックに聞こえるように、すごくロックな曲なので。そこはイメージしながら録音に臨みました。」
佐野「最初、もうちょっと控えめなギターサウンドだったんですけど、差し替えたりして、ザラっとした、割と前よりも歪みを増したような感じで録り直して今の形になりました。」
──では、次が先行配信された“Circle”ですね。 まさに先行シングル的な曲ですよね。
渡辺「完成した時に、〈凄くリード曲的な曲が出来たよね〉って話をみんなでしていて、先行配信について話し合っている時に、〈この曲だよね〉ってなりました。」
──アルバム完成にあたって、いろいろな方からメッセージが寄せられている中で、この曲に関してLOVE LOVE STRAWの北目さん(※2)から〈サビのコード進行がさすが〉というコメントがありました。
佐野「いやー、なんですかね。嬉しいですよね。なんかほめてもらっちゃって、ありがたいですね。」
──次は4曲目の“Liberty” 比較的な内証的なイメージだと思いました。喜びに対して悲しみという言葉があったり。揺れ動くような。
佐野「そういった対比の表現というのは結構意識して書きましたね。なんかそういう表現の方が自分の中ではしっくりくるんですよね。嬉しいことがあっても何か通底してさみしさがあったりとか、寂しいんだけれども、本当は嬉しいっていうか、幸福感とかも同時進行で並行するような生活があるのかなって思っているので、そういったことを表現したかったです。」
──そして、“Answers”。
佐野「ベーシックで何曲か録った中で、そのベーシック・テイクがそのままOKテイクになった曲がこれで。初日に録音したのもこの曲なんですよ。」
──多様性と、それが簡単に世の中に受け入れられるわけではないということに言及した歌詞ですよね。
佐野「やはり、多様性という言葉自体も多様性ととらえるとそれ一辺倒になってしまうじゃないですか。その反転した意味合いというのもあると思うので、そういうところまで掴みたいっていう。」
──次は“out of the window”ですね。 Aメロの歌い方がこれまでにないような。吐き捨てるというか。
佐野「そうですね。語りですね。これが一曲目にできた曲ですね。」
渡辺「最初にみんなで集まって一回スタジオ入ろうかって言って、佐野が〈新曲あるんだよ〉って、まずに聞かせてもらった曲がこれです。」
──それまでのソフトタッチの楽曲とは毛色が違うと思うのですけど。最初聞いたときどんな印象でしたか。
渡辺「すげえ、いい曲じゃん。やろう、やろうと。」
山田「今まで違う感じで、ちょっとBEDTOWN(※3)っぽいなってところも感じました。」
星野「僕は今のソフトタッチっぽさも感じてたけど、歌のキーが下がっていることもあって印象が違うかなと。」
渡辺「歌詞の内容も、サウンドもそうなんですけど、佐野がソフトタッチ再結成までの、すべてが、例えばBEDTOWNぽさとか歌詞の内容とかも含めて、そういうのが全部詰め込まれている曲だなって思って、しかも従来のソフトタッチぽくもあって、すげぇいい曲だなって思いました。」
──作曲者冥利に尽きるメンバーからの言葉ですが。
佐野「そうですね…。ありがとうございます(笑)。」
──続いて7曲目“プラットフォーム“8曲目“笑み”は、アルバムの中でも特にハードでエモーショナルな曲ですね。
佐野「“プラットフォーム”の〈何を選ん〉で〈何を掴んだって言うのかい〉とか、そういう強いメッセージを伝えるには、それなりの勢いある声が必要ですよね。前に出る声が欲しかったというのがあって、それを表現していくっていうか形を整える、整えるというか肉付けしていったらこうなりましたね。」
渡辺「細かい話なんですけど、ソフトタッチで初めてドロップDのチューニングにしました。」
──“プラットフォーム“の次の曲が“笑み”。 この曲もメッセージの内容としては〈個人〉と〈社会〉。
佐野「〈個人〉と〈社会〉のかかわり方の、危うい感じっていうのを表現するため、Aメロ内でメジャーキーとマイナーキーが行ったり来たりするんですよ。明るくなったり暗くなったり、そういう響きを意図的に使っていて。現代社会のテンションというのが表現できているのではないかと思ってます。」
──9曲目“自然の光”。また毛色が違う曲ですね。
佐野「これは作曲、山ちゃん。」
山田「作った時期はだいぶ昔で、それこそ10年以上前の曲なんですよ。 多分その時はタッチ(一回目の)再結成をしていない時期で、やっぱりなんかさびしいものがあったんでしょうね(笑)。毎日電車通勤で、そういう感じが自分の中でイメージとしてあって。仮タイトル(通勤に使っていた)京王線なんですよ。」
一同(笑)
──そして“TODAY”。この曲もまたノリが他の曲とは違いますね。
佐野 「軽いですね。すごくデッド、乾いた雰囲気を大切にした曲ですね。カラっとした感じになってますね。この曲の特徴は「さよならだけが全てじゃない」という歌詞。〈ない〉という表現って今回のアルバムにあんまりないんですよ。〈NOT〉否定的表現ですね。この曲はあえてそういった言い回しを、否定なんですけど、さようならに対する否定なので。」
──最後の曲は“共同幻想”、非常にタイトルが強い言葉だなと。
佐野「みんなで、みんなというかライヴとか、音源を聞いている人たちと、その音が鳴っている場を共有できる音楽、というのを歌ってみたい、というのがテーマとして有りました。」
──具体的な共同体という事ではなく、音楽を通じて一緒にいれたらということですね。
佐野「はい、そう思ってます。」
──ジャケット、アー写ですけど、従来のソフトタッチのイメージとはまた違う感じですよね。アー写はオフィス街?
佐野「パブリックというのとプライベートというのを俯瞰できるような風景というのが漠然とテーマとしてあって、それがこういうかたちになりました。オフィスビルの写真なんですけど居住部分とオフィス部分が混じるような場所ですね。そういうのが生活世界に含まれていますという。」
──アルバムタイトル『リビルド』は、組み立て直すとか、希望を取り戻す等の意味ですよね。
佐野「再構築ですね。何を再構築するかってところで、我々で言えばソフトタッチだったりしますし、リスナーの皆さんの中では何かが始まるきっかけになったらなっていうメッセージがありますね。」
──再構築するにはそのための部品が必要なはずなので、その部品がどのように作られてきたかというのを後半は聴いていきたいと思います。
というわけで、インタビューは後半に続きます!
※2018年9月18日公開予定
※1:アンダーフラワーの田中さん
ASIAN KUNG-FU GENERATIONのミニアルバム『崩壊アンプリファー』は2002年UNDER FLOWER LABELからリリースされた。ソフトタッチの諸作品もこのレーベルからリリースしている。そのレーベル主宰者が田中氏。UNDER FLOWERにはNONA REEVESやShortcut miffy!などが所属。
※2:LOVE LOVE STRAWの北目さん
US、UKインディーロック直系のギターロックバンド。ソフトタッチ同様、UNDER FLOWER LABELに所属していた。北目氏はLOVE LOVE STRAWのギタリスト。
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※3:BEDTOWN
佐野、星野がソフトタッチ活動休止後、結成した3ピースバンド。enn discより『Abstract Documentary Girl』をリリース。
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ソフトタッチ『リビルド』
後藤正文(ASIAN KUNG-FU GENERATION)&井上陽介(Turntable Films/Subtle Control/Peg&Awl)をプロデューサーに迎え、“再構築”を掲げて完成させた、11年振り3枚目となるニュー・アルバム 『リビルド』。過去を受け入れ、未来を見つめ、今、また多くの人々と交わり、夢や希望を鳴らし合う、傑作の誕生です。マスタリングは、全曲Stephen Marcussenが担当。
■LIVE INFO
[解放 #3] ~ソフトタッチ『リビルド』リリース記念ワンマンライブ~
11月30日(金)@下北沢Basement Bar Open19:30/Start 20:00
Opening act:桂田5
Adv¥2500/Day¥3000(+D)
[解放 #4]
2019年1月12日(土) 大阪府 難波ベアーズ
<出演者>
ソフトタッチ
Bacon/
and more
■PROFILE
佐野史紀(Vo&Gt)、山田真一(Gt&Cho)、渡辺大介(Ba&Cho)、星野誠(Dr&Cho)から成る4ピースバンド。
1998年秋昭和音大の仲間を中心に結成。略称「タッチ」
2000年冬1stアルバム『Positive Thinking』でデビュー。
2002年春1st EP『セイリョウカンベットタウン』発売。
同年秋2nd EP『エンドマークタワー ep』発売。
2003年春解散。
2007年春『セイリョウカンベットタウン』と『エンドマークタワー ep』を重ねた2in1アルバム『SOFTTOUCH』発売。
2016年夏活動再開。
2018年、後藤正文 (ASIAN KUNG-FU GENERATION) 主宰のレーベル ”only in dreams” より、後藤正文と井上陽介 (Turntable Films / Subtle Control / Peg&Awl)がプロデュースを手掛けた3rdアルバム『リビルド』を11年振りにリリース予定。
アルバム『リビルド』のリリースに先駆けて、6月1日(金)よりアルバム収録曲「Circle」を先行配信し、「Circle」のMVも同時公開。6月18日(月)、7月9日(月)には、「解放#0」、「解放#1」と名付けた自主企画を、2ヶ月連続で開催する。
タグ : J-インディーズ
掲載: 2018年09月11日 18:00