ゲーベル&フランクフルト放送、タール&グロートホイゼン~エーベルル、ドゥシェク:2台のピアノのための協奏曲、他【ベートーヴェンの世界[4]】
ゲーベルがベートーヴェン生誕250年の今年にこそ実現するスペシャル・プロジェクト「ベートーヴェンの世界」第4弾! ピアノデュオのタール&グロートホイゼンを迎え、当時ベートーヴェン以上に人気のあった作曲家の秘曲が現代によみがえる。
あのムジカ・アンティクヮ・ケルンの創設者で、斬新な解釈で世界を驚かすラインハルト・ゲーベルが、ベートーヴェン・アニヴァーサリー・イヤーにおくるスペシャル・プロジェクト「ベートーヴェンの世界」。しかしながら「ベートーヴェンの世界」と銘打ちながらも、ベートーヴェンの作品はごく少なく、むしろベートーヴェンと同時代の作曲家の知られざる作品で、世界初録音も多数含まれるというのが、鬼才ゲーベルらしいといえましょう。これまでのこのすべてのシリーズ録音は、世界中で大きな注目と優れた評価を受けています。フランツ・クレメントのヴァイオリン協奏曲を含む最初のアルバムについて「ゲーベルが、ベートーヴェン・イヤーとして多角的に見たベートーヴェンの同時代作曲家の発見がこのように続けば、素晴らしい年になるだろう」(独『日曜日の世界』紙)、レイハとロンベルクによる2台のチェロのための協奏曲が収録された2番目のアルバムについて「このレコーディングでは、新しい基準が設定された画期的なもの」、サリエリ、フンメル、ヴォジーシェクの作品を含む3枚目のアルバムでは「ベートーヴェン・イヤーへの卓越した貢献。モーツァルトのピアノ協奏曲や、ベートーヴェンの交響曲以上に、当時のウィーンで、より多くのことを聞いたことがあったことをもう一度印象的に証明した」(Deutschlandfunk)と高い評価を得ています。
このシリーズの4枚目のアルバムでも、ゲーベルは、ベートーヴェンと同時代の人々からのさらに並外れた作品を見いだし、19世紀初頭のウィーンの音楽を紹介し続けています。名ピアノデュオのタール&グロートホイゼンとフランクフルト放送交響楽団を起用したこのアルバムの中心をなすのは、アントン・エーベルル(1765-1807)と、ヤン・ラディスラフ・ドゥシェク(ドゥシーク)(1760-1812)による2台のピアノのための協奏曲です。
エーベルルはウィーンに生まれ、早くも8歳でピアノ腕前を披露、18歳で公開コンサートデビューを果たし、22歳になる頃には初のジングシュピールを上演し、当時、モーツァルトやサリエリを始め、オペラ作曲家として多くの音楽家の崇拝を集めていたグルックからも賞賛されました。エーベルルの初期のピアノ・ソナタはモーツァルト作曲として出版され、当時の演奏会では、後半に置かれたベートーヴェンの「英雄交響曲」より前半のエーベルル作曲の交響曲が高評価を受けるほどだったほど。エーベルレによる2台のピアノのための協奏曲は、モーツァルトの作品にも似た華やかさを持ち、エーベルル自身もコンサートツアーでしばしば演奏したといわれています。
ドゥシェク(ドゥシーク)はボヘミア東部のチャースラフで生まれ、ボヘミアで早期の学習を終えると、オランダやドイツ各地を旅し、この間にC.P.E.バッハに学んだともいわれています。ロシアのエカテリーナ2世、フランスのマリー・アントワネットにその才覚を愛されながらも、陰謀、革命によりイギリスへと逃れましたが、ロンドンでハイドンから大絶賛され、ピアノの「英国式アクション」を開発したジョン・ブロードウッドと親交があり、そのピアノに相応しい力強さや音域を求めた作品を書いて、イギリス・ピアノ楽派の基礎を築きました。ベートーヴェンとも交流があり、ブロードウッド社は彼にピアノを贈っています。ドゥシェクの音楽は、メンデルスゾーンやシューマン、ショパンなど、ロマン派のピアノ曲作曲家の重要な先駆者であり同世代の後期古典派の作曲家に比べると、複雑ではるかにモダンな様式を用いて作曲しています。今日では、ベートーヴェンやシューベルトの先駆者としても評価が進んでいます
このアルバムにはヨーゼフ・アイブラー(1765-1846)の「スペインのフォリア(コレッリ:ヴァイオリン・ソナタOp.5-12「ラ・フォリア」による)」の世界初録音も収録されています。アイブラーは、アルブレヒツベルガーに作曲を師事し、モーツァルトに次ぐ楽才の持ち主と認められ、ハイドンも称賛していました。現在では彼の作品はほとんど演奏されません。むしろ彼の名を現代に伝えているのは『モーツァルトの死後、コンスタンツェが未完成となっていた「レクィエム」を完成させてくれるようにと持ちかけられ、アイブラーは努力したのですが、その要求をかなえることはできなかった』というエピソードほうでしょう。1825年の段階で、ウィーンでは宮廷楽長アイブラーの名は有名であり、特にベートーヴェンは大規模な教会音楽に見られる優れた対位法の扱いのゆえに、彼の作品を非常に高く評価していました。アイブラーの音楽はウィーンで多く演奏され、1826年にウィーン楽友協会がアイブラーをベートーヴェンと同時に名誉会員にしていますが、ベートーヴェン信奉者も多く「アイブラーがいなければベートーヴェンがもっと大きな名声を得られた」とアイブラーを非難したものいたようです。しかし結局、彼はハイドン、モーツァルト、ベートーヴェンの影に不当にも押しやられることとなってしまいました。
現在ではほとんど演奏されないベートーヴェンの「祝賀メヌエット」は1822年に作曲された作品で、ウィーンの劇作家および劇場のマネージャーであったカール・フリードリヒ・ヘンスラーへのオマージュとして書かれ、ヴァイオリニストでベートーヴェンの秘書を務めたカール・ホルツに、セレナーデ演奏される1曲として献呈されました。
古典派から前期ロマン派への過渡期において個性的な輝きを放つこのアルバムの作品は、当時ベートーヴェンの作品よりもはるかに熱狂的に受け入れたものばかり。鬼才ゲーベルのアプローチもこれまでと変わることなく、モダン楽器オーケストラを意のままに操り、ロマンティックな情熱を込めた演奏を繰り広げています。モダン楽器を使用したフランクフルト放送交響楽団の透明感あふれるHIPスタイルにより、力感溢れる演奏を繰り広げています。
(ソニーミュージック)
『エーベルル、ドゥシェク:2台のピアノのための協奏曲、他【ベートーヴェンの世界[4]】』
【曲目】
1. ベートーヴェン:祝賀メヌエット 変ホ長調 WoO.3 (1822)
2. アントン・エーベルル:2台のピアノのための協奏曲 変ロ長調 Op.45 (1803)
3. ヤン・ラディスラフ・ドゥシェク(ドゥシーク):2台のピアノのための協奏曲 変ロ長調 Op.63 (1806)
4. ヨーゼフ・アイブラー:スペイン・フォリア(コレッリ:ヴァイオリン・ソナタ Op.5-12「ラ・フォリア」による)
【演奏】
タール&グロートホイゼン(ピアノデュオ:2,3)
ラインハルト・ゲーベル(指揮)
フランクフルト放送交響楽団
【録音】
2018年12月6-8日、フランクフルト、ヘッセン放送ゼンデザール
カテゴリ : ニューリリース
掲載: 2020年09月24日 00:00