ゲーベル&ミュンヘン放送管、サラ・クリスティアン、他~ベートーヴェン、ヴラニツキー、レイハ、ヴォジーシェク:協奏曲集【ベートーヴェンの世界[5]】
ゲーベルがベートーヴェン生誕250年の今年にこそ実現するスペシャル・プロジェクト「ベートーヴェンの世界」完結編! 当時ベートーヴェン以上に人気のあった作曲家の秘曲が現代によみがえる。
ムジカ・アンティクヮ・ケルンの創設者で、斬新な解釈で世界を驚かすラインハルト・ゲーベルが、ベートーヴェン・アニヴァーサリー・イヤーにおくるスペシャル・プロジェクト「ベートーヴェンの世界」。
「ベートーヴェンの世界」と銘打ちながらも、ベートーヴェンの作品はごく少なく、むしろベートーヴェンと同時代の作曲家の知られざる作品で、世界初録音も多数含まれるというのが、鬼才ゲーベルらしいといえましょう。これまでのこのすべてのシリーズ録音は、世界中で大きな注目と優れた評価を受けています。
シリーズの完結編となるこの5枚目のアルバムは、19世紀初頭のウィーンへのベートーヴェンと同時代の傑出した音楽的進出で締めくくっています。
《ヴァイオリン協奏曲ハ長調WoO.5》は、1790年、ベートーヴェンがまだ19歳の時に初めて書いたヴァイオリン協奏曲です。この年は、ハイドンがコンサートで渡英するためにボンに滞在した年でもあります。その後、ベートーヴェンがハイドンと会見するのは帰路の92年7月初旬で、ハイドンに弟子入りすることとなりました。ベートーヴェンの手稿譜は第1楽章の259小節の断片だけが残っており、ウィーン楽友協会に保管されています。この断片は第1楽章の一部、または全楽章完成されたものか、未発見部分は後に失われたものなのか、未完成だったのか広範な議論があります。この手稿譜が1870年に再発見して以来、ヨーゼフ・ヘルメスベルガー、フアン・マネン、アウグスト・ウィルヘルムミらが補筆し出版しています。ここではヘルメスベルガーによる第1楽章の1879年の補筆完成版によって演奏されています。
アントニン・ヴラニツキー(1761-1820)は、チェコ南部モラヴィア西部出身のヴァイオリニスト・作曲家で、1783年から、モーツァルト、ハイドン、アルブレヒツベルガーに師事しています。1784年にガランタのエステルハージの宮の音楽監督、1785年にウィーンのケンルントナー劇場管弦楽団の音楽監督、1787年にウィーン・ブルク劇場の音楽監督に就任。1797年にはベートーヴェンのパトロンとして有名なロプコヴィッツ侯爵家の楽長、1807年からはウィーン帝室管弦楽団の指揮者、1814年にはアン・デア・ウィーン劇場の楽長などウィーンで活躍しました。皇帝フランツ・ヨーゼフ2世の音楽部門の貴重なメンバーで、皇后マリア・テレジアのお気に入りの作曲家、特に交響曲作曲家の1人と見なされ、交響曲と舞台作品音楽で高く評価されました。彼は頻繁に宮廷のイベントのために交響曲や管弦楽作品を書くように依頼されており、王室委員会では彼の作品は最高の出来と認定されていました。彼の親しい友人であったハイドンやモーツァルトの作品と比較して、彼の音楽は頻繁に演奏されていました。《2つのヴィオラのための協奏曲》は、珍しい2つの独奏ヴィオラのための1805年に書かれた協奏曲。特に彼自身がヴァイオリニストでもあったため、ヴァイオリンやヴィオラの作品では技巧的要求が求められています。
アントニーン・レイハ(1770-1836、アントン・ライヒャとも)はプラハで生まれ、1785年ケルン選帝侯マクシミリアンの宮廷楽団のフルート奏者としてボンに移り、同じ楽団でヴィオラ奏者だったベートーヴェンと知り合いました。1789年、ベートーヴェンとともにボン大学に入学。1801年ウィーンに移り、ベートーヴェンと再会し、サリエリ、アルブレヒツベルガー、ハイドンに師事。マンハイム楽派やグルック、モーツァルトなどの影響を受けています。レイハはまだ進化途中の管楽器(フルート、オーボエ、クラリネット、ファゴット、ホルン)の演奏技術を拡大したいと考え、それまでのハルモニームジークよりも演奏表現を大きくすることに成功したのです。特にヴァルヴのないナチュラルホルンに高度なテクニックを求め、作曲するにあたっては、当時のホルンのヴィルトゥオーゾであり教師のルイ=フランソワ・ドープラ(1781-1868)から技術的な面での助言なども受けていたようです。この協奏曲でも技巧的要求が求められています。
ボヘミア出身のヤン・ヴァーツラフ・ヴォジーシェク(1791-1821)はプラハで修行した後にウィーンで活躍。フンメルに師事し、1813年ベートーヴェンに初めて出会い、翌年のウィーン訪問中に激励されたようです。特にシューベルトとは家族ぐるみの友人で、共に影響し合ったといわれています。ここに収録された三重協奏的作品は1820年に作曲された作品で、ベートーヴェンの三重協奏曲と同じヴァイオリン、チェロ、ピアノという3つの独奏楽器のための、ベートーヴェンのそれよりは約17年後の作品ですが、作風はシューベルト的なロマンティシズムをたたえています。
ソリストには、ドイツ・カンマーフィルのコンサートミストレスを務めるサラ・クリスティアン、ドイツが誇るヴィオラ界の俊英ニルス・メンケマイヤー、タベア・ツィンマーマンから学び、アルミーダ・カルテットのヴィオラ奏者も務めるテレサ・シュヴァム、バンベルク交響楽団の首席ホルン奏者で、ソリストだけでなく音楽教育者としても名高いクリストフ・エス、ベルリン・フィルのチェロ奏者で、フィルハーモニクスのメンバーでもあるシュテファン・コンツ、そして、実力派ピアノ・デュオ「タール&グロートホイゼン」の一人であるヤアラ・タールら、現代的感性を持つ奏者が起用されています。ゲーベルはモダン楽器によるオーケストラを透明感あふれるHIPスタイルに変貌させ、力感溢れる演奏が繰り広げられています。
(ソニーミュージック)
『ベートーヴェン、ヴラニツキー、レイハ、ヴォジーシェク:協奏曲集【ベートーヴェンの世界[5]】』
【曲目】
1. ベートーヴェン:ヴァイオリン協奏曲 ハ長調 WoO.5~第1楽章:アレグロ・コン・ブリオ(ヨーゼフ・ヘルメスベルガー補筆完成版)
2. アントニン・ヴラニツキー:2つのヴィオラのための協奏曲 ハ長調
3. アントニーン・レイハ:ホルン協奏曲 ト長調(世界初録音)
4. ヤン・ヴァーツラフ・ヴォジーシェク:ピアノ、ヴァイオリン、チェロのための協奏的大ロンド Op.25
【演奏】
サラ・クリスティアン(ヴァイオリン:1&4)
ニルス・メンケマイヤー(ヴィオラ:2)
テレサ・シュヴァム(ヴィオラ:2)
クリストフ・エス(ホルン:3)
ヤアラ・タール(ピアノ:4)
シュテファン・コンツ(チェロ:4)
ミュンヘン放送管弦楽団
ラインハルト・ゲーベル(指揮)
【録音】
2019年9月20-25日、ミュンヘン、バイエルン放送第1スタジオ
カテゴリ : ニューリリース
掲載: 2020年12月22日 00:00