鐵百合奈の新録音はシューマン:ピアノ・ソナタ第2番&第1番
鐵百合奈のCD第2弾は、シューマンのピアノ・ソナタ第2番と第1番を収録、デビュー盤の第3番と合わせて、シューマンのピアノ・ソナタ全3曲が完成しました。
シューマンの最初のソナタである第1番は、初版では「フロレスタンとオイゼビウスによるピアノ・ソナタ、クララに献呈」と表記され、シューマンの名を秘しています。
フロレスタンとオイゼビウスは、シューマンの情動的な面と思索的な面を表す、シューマンが創造した分身であり、分裂していると言われているシューマンを象徴する存在と言えます。
献呈されたクララは後年シューマンの妻となりますが、クララの父であり、シューマンの恩師でもあるヴィークから2人の仲を強烈に妨害され、裁判沙汰にまでなっていました。しかし、クララは献呈されたこのソナタを、シューマンの意に答え、作曲された2年後の1837年8月にライプツィヒで開いたリサイタルで弾き、その直後に手紙で結婚を承諾しています。
第2番は1830年から1838年にかけ8年の年月をかけ推敲を重ね、クララの助言も受けながら完成させていて、シューマンのソナタの中ではもっとも洗練されたソナタと言われています。
このCDでも鐵百合奈自らが曲の解説などを執筆しており、2番のソナタについて「内容の深さ、凝縮された精神性に目が醒める思い。あえて音量を絞ることで感情表現が激化する箇所が多々ある」と述べています
シューマンの音の喜びは同時に影であり、シューマンの矛盾する2つの側面を一つの響きの中に表現するには、演奏者に稀有な感性と才能が要求されます。
その要求に鐵百合奈は見事に答えていると言えるでしょう。
(fine NF)
【曲目】
シューマン:
ピアノ・ソナタ第2番 ト短調 Op. 22
ピアノ・ソナタ第1番 嬰ヘ短調 Op. 11
【演奏】
鐵 百合奈(ピアノ)
【録音】
2020年6月25日、26日 LCCホール(千葉県)
<鐵 百合奈 Yurina Tetsu>
2019年、N&FよりデビューCD「シューマン: ソナタ3番 ブラームス: 左手のためのシャコンヌ」をリリース。「レコード芸術」で準特選盤、毎日新聞で特薦盤に選ばれる。同年よりベートーヴェンのピアノ・ソナタ全曲演奏シリーズを開催、NHKからドキュメンタリーが放映される。
多くのリサイタルを開くほか、読売日本交響楽団、東京交響楽団、広島交響楽団などオーケストラとの共演も多い。
第86回日本音楽コンクール第2位、岩谷賞(聴衆賞)、三宅賞。第4回高松国際ピアノコンクール審議員特別賞。第20回日本クラシック音楽コンクール高校の部第1位、グランプリ。第11回大阪国際音楽コンクール、第14回ローゼンストック国際ピアノコンクール、各第1位。 2015年、皇居内桃華楽堂において御前演奏を行う。2017年度香川県文化芸術新人賞受賞。
ヤマハ音楽振興会、よんでん文化振興財団、岩谷時子 Foundation for Youth、宗次エンジェル基金より、奨学金の助成を受ける。
学術面では、論文「『ソナタ形式』からの解放」で第4回柴田南雄音楽評論賞(本賞)を受賞、翌年「演奏の復権:『分析』から音楽を取り戻す」で第5回同本賞を連続受賞。
東京藝術大学附属音楽高等学校、同大、同修士課程、同博士後期課程を修了、論文「演奏解釈の流行と盛衰、繰り返される『読み直し』:18世紀から現在に至るベートーヴェン受容の変遷を踏まえて」で博士号を取得。2020年より桐朋学園大学院大学専任講師に就任。
カテゴリ : ニューリリース
掲載: 2021年06月16日 00:00