気鋭の現代音楽をリリース!NEOS レーベル~2022年3月発売新譜情報(8タイトル)
ドイツで2007年に設立されたレーベル「NEOS」。現代音楽を得意とし、世界初のレコーディングを数多くリリースしています。今回ヘルムート・フランマーの管弦楽作品集の第3弾に、ベルリンを拠点に活動する中国出身の作曲家チェンビ・アン、チリの作曲家ダニエル・オソリオ、スペインの作曲家ダビド・モリナーなど、気鋭の現代音楽作曲家のアルバムを8タイトルをリリースします。
エルンスト・ヘルムート・フランマー(1949-):管弦楽曲作品集Vol.3
ローター・ツァグロセク(指揮)ザールブリュッケン放送交響楽団、ラフ・ヘンツォルト(指揮)バイエルン放送交響楽団、他
NEOSレーベルが力を入れている作曲家の一人ヘルムート・フランマーの管弦楽作品集の第3弾(第1集はNEOS10803、第2集はNEOS11909)。フランマーは当初、数学と物理を学んだ後、クラウス・フーバー、ブライアン・ファーニホウに作曲を師事した。ここに収められた作品はいずれも大オーケストラのために書かれたドラマティックな曲ばかり。キリストが磔の刑に処せられる前夜の祈りに題材をとった「ゲッセマネ」はオーケストラの叫ぶような大音響と劇的なうねりに満ちた表現主義的な大作。ソプラノ、バリトン独唱が入る「GEN」はハイドンのオラトリオ「天地創造」の冒頭にインスパイアされたとのことでタイトルのGENにはgenesis(創世記)、general、genuine(純正)など複数の意味が含まれる。オーケストラのカオスとアダムとイヴを思わせる男女のヴォカリーズが織りなす前衛の手法で描かれた旧約聖書の世界。収録曲いずれも渾身の作で聴きごたえ充分。
(東武ランドシステム)
ヴァルターと次の世代の作曲家たち
アルマンド・メリーノ(指揮)デア/ゲルベ/クラング(アンサンブル)
ドイツ、バイエルン州ヴュルツブルクに所縁のある新旧世代の作曲家による作品集。特に師弟関係にあるとか同じ楽派というわけではなくスタイルは様々。H.E.ヴァルターの「4人の金管楽器奏者のための協奏曲」はこの世代のドイツの作曲家の作品には珍しく、ダルムシュタット楽派の影響は一切受けておらず、ストラヴィンスキーの新古典主義の作品やヒンデミットの影響が感じられる秀作。クローゼの「色の雲」は女性作曲家らしい繊細なテクスチュアと調性的な要素、息の長い、たおやかな旋律がドビュッシーを思わせる美しい作品。ヴァイスの室内交響曲は無調と調性が折衷され時折り、軍楽隊の行進曲が引用されるあたりがクルト・ワイル、エルンスト・クシェネクを思わせる面白い作品。
(東武ランドシステム)
チェンビ・アン(安承弼/アン・スンピル)(1967-):作品集
プロドロモス・シメオニディス(ピアノ)、メリーゼ・メリンガー(ヴァイオリン)、他
チェンビ・アンはベルリンを拠点に活動する中国出身の作曲家。上海音楽院で学んだ後、パリ国立高等音楽院でスペクトル楽派の作曲家ジェラール・グリゼイに師事、1998年に電子音楽で一等賞を取った。韓国で活躍していたこともあり韓国語読み(Seungpil An)でも通じている。
彼の作風は電子音楽とスペクトル音楽を学んだだけあって、アコースティック楽器と電子音響の融合、生楽器の奏法における電子音楽的応用、打楽器への偏愛など、音色の変容に主な関心が注がれている。「音の集合体」では特殊奏法のピアノと予め録音された(人の声を含む)具体音、コンピュータの電子音がパッチワークのようにコラージュされる。「ルサック」は管弦楽の咆哮と静寂が繰り返される中で響きの色彩のグラデーションが次第に変容してゆくプロセスが美しい。
(東武ランドシステム)
ダニエル・オソリオ(1971-):ツィックス(Zikkus)
ディー・クロノピエン - コレクティフ・フュア・インテルクルチュレーレ・ノイエ・ムジーク
ダニエル・オソリオはチリ出身。チリ大学でパブロ・アランダに電子音楽を学んだ後、ドイツ・ザールブリュケンに移住し、現在この地を拠点に活動している。このディスクは様々な独奏楽器と予め制作された電子音響あるいは独奏楽器をリアル・タイムでコンピュータ変調した音を組み合わせた方法で作られた曲で構成されている。生楽器の奏する特殊奏法を含む音がコンピュータ音響と渾然一体となってバイオメカノイド(画家H.R.ギーガーによる想像上の生体と機械の融合体)を思わせる摩訶不思議な世界が拡がる。
(東武ランドシステム)
ゲオルク・カッツァー(1935-2019)&フリードリヒ・ゴルトマン(1941-2009):作品集
クレメンス・シュルト(指揮)ミュンヘン室内管弦楽団
カッツァーはポーランド領シレジア出身。戦後は東ベルリンに移住しハンス・アイスラーに学んだ。また自ら電子音楽スタジオを設立し研究と制作に従事した。「弦楽音楽1」はその成果がアコースティック楽器で表現されたもので、ペンデレッキの「広島の犠牲者への哀歌」を思わせる特殊奏法による音響の変容で作られている。晩年の「3つの言葉」は逆にシェーンベルクやベルクに回帰したかのような表現主義的でロマンティックな作品。ゴルトマンは東ドイツ出身だがダルムシュタットでシュトックハウゼンの講義に接して刺激を受け、これまで4つの交響曲、多くの協奏曲、歌劇を発表している。「ほとんど凍った落ち着きのない・・・」は終始厳しい点描的な書法で書かれている一方、「アンサンブル・コンチェルト」は長い音の持続が他の楽器に静かに受け継がれ次第に音のテクスチュアが厚みと激しさを増す。点描的な激しい音楽となったかと思えば、なぜかフィリップ・グラス風のミニマル・ミュージックになり協和音が響くというユニークな音楽。
(東武ランドシステム)
ダビド・モリナー(1991-):作品集
ダビド・モリナー(パーカッション)、フェビアン・パニセーリョ(指揮)プルーラル・アンサンブル
ダビド・モリナーはスペインの作曲家、打楽器奏者。作曲をパスカル・デュサパン、イェルク・ヴィトマンに師事した。演奏しながら奏者が奇声を発したり、何らかの演劇的アクションをしたり、体の一部を叩くボディ・パーカッション、シュヴィッタース(1887-1948)の音響詩のような手法はケージ、カーゲルや日本の中川俊郎あたりを思わせ、それ自体はもはや今となっては古臭い様式だが、そうしたダダ、ネオ・ダダ的な方法を今日的な感覚でよみがえらせようとしている作曲家として近年ヨーロッパで注目されている。「欲望のオルガスム的流出」では奏者はスネア・ドラムを叩きながらひたすら意味不明な奇声を発し続ける。人を喰ったようなタイトルといい、赤塚不二夫的ユーモアとセンス・オブ・ナンセンスを持った作曲家。カーゲルが好きな人なら気に入るかも。
(東武ランドシステム)
ラヴ・ソングズ~ローリー・オルトマン(1944-)の音楽
ランディ・バウアー(ピアノ)、オーロル・カニー(ヴィオラ)、フローリアン・エッグナー(チェロ)、他
ローリー・オルトマンはニューヨーク出身。クラシックの作曲を学んだ後、ジャズ・ピアニストとしてアメリカのみならずロシア、フィンランド、オーストリアでも盛んに活動している。本作はオルトマンが自ら作詞作曲したソング集が収められている。敢えてカテゴライズするとすればジャズに分類されようがヴォーカルにアコーディオンやヴァイオリン、チェロ、ベースなどを加えたクラシック寄りの編成は近年台頭しているジャンルであるポスト・クラシックと呼んでもよい。チック・コリアやキース・ジャレット、ヤン・ガルバレクに通じるものがあり、ECMが出しているような音楽が大好きという人にお薦め。
(東武ランドシステム)
ラルフ・ホイヤー(1950-):エレクトロアコースティック作品集
ラルフ・ホイヤー(制作)
CDをかけた瞬間、プレーヤーが故障したのではないかと錯覚するほどピーピーガーガー、ブリブリといった電子ノイズで始まる「残存_リスク」、人の話し声がディスクの音飛びのように途切れたり繰り返されたり(これも最初は再生装置の故障かと思わせる)、スナック菓子をぱりぱりと食べているような音が延々と繰り返される「4worte09」、警報音のような音が断続的に鳴り続ける「描かれた時間」、金属的なドローン音がどこか終末論的な近未来世界を思わせるタイトルも破格の「from_2to_・・・」など、どれもぶっ飛んだ電子音楽ばかり。作曲者のラルフ・ホイヤーはベルリンのハンス・アイスラー・アカデミーでサウンド・エンジニアリングを学んだ後、ドイツ・シャル・プラッテンでディレクターとして働いた。その後、ゲオルグ・カッツァーに作曲を学び、現在はフリーランスの作曲家としてサウンド・インスタレーションや室内楽、オペラなど多様な作品を発表している。とにかく常軌を逸した音楽を聴きたいという好事家、電子音楽ファンに(のみ)お薦め。最初はプレーヤーの故障かと思うが、全てそういう作品なのでご安心を(笑)。
(東武ランドシステム)
カテゴリ : ニューリリース
掲載: 2022年02月17日 00:00