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令和の音楽業界はなにが違う?世界に受けるヒット作連発の謎を「令和ヒットの方程式」で紐解く

令和ヒットの方程式

これまで日本の楽曲は、世界的ヒットは困難であるという印象があった。しかし2020年代に入り、YOASOBIやimase、Creepy Nutsなどのアーティストが海外でも人気を獲得したのはご存知のとおり。

令和に入ってから、なぜ日本のアーティストたちは世界的ヒット作を生み出すようになったのだろうか。気になる理由を、博報堂DYグループコンテンツビジネスラボによる書籍「令和ヒットの方程式」を頼りに紐解いてみよう。


●「いかに買わせるか」より「いかに聴かせるか」

2020年以前の音楽業界では、CDの売上・楽曲ダウンロード数などがアーティストや楽曲人気の指針とされていた。とはいえCDは人気投票券やイベント参加券といった特典のために購入する人も多く、可視化されるのはファンダム(熱心なファン)の規模と支出力だった。

しかし2020年代に入ると音楽ストリーミングサービスを利用する人が増え、自由にさまざまな楽曲が聴けることから、購入金額よりも再生数を重視する傾向に。楽曲をリスト化できるプレイリスト機能では、世界中の再生数を元にしたランキングプレイリストというものも公開されている。

ランキングプレイリストではよく聴かれる曲がランクインすることで、さらに聴かれるというサイクルも起こる。そのため、令和のアーティスト活動は“いかに再生数を伸ばすか”が重要になるのだ。

●ショート動画は人気のパラメーター

令和に入ると、いかにタイパ(時間対効果)を上げることができるかという視点からショート動画が注目されるようになった。タイパの良いショート動画は、じつは2020年代に代表されるアーティストのヒット曲にも大きく貢献しているようだ。

TikTokやYouTube shortsといった動画プラットフォームでは、スマホで短尺動画を撮ってそのまま公開することができる。“手軽さ”によって誰もがいつでもクリエイターになれるという環境を作り、アーティストの楽曲やダンスを真似する「歌ってみた」や「踊ってみた」が盛んになった。

TikTokにおいて楽曲に振り付けがつくことは、バイラルのひとつの条件とも言えるようになっている。実際、TikTokが発表しているその年よく聴かれた楽曲を見ると、その半数は振り付けをカバーする投稿によって再生回数が増えた楽曲だということがわかる。

「令和ヒットの方程式」より

また、楽曲のサビなど一部分をショート動画に投稿し、視聴者に好評なものを正式にフル楽曲として制作するアーティストも多い。令和の音楽業界において、ショート動画も人気のパラメーターといえるだろう。

●Creepy Nutsから見るヒットの方程式

2024年に楽曲『Bling-Bang-Bang-Born』が世界中で大ヒットしたCreepy Nutsを例に、令和のヒットの方程式とは何なのかを見てみよう。

R-指定とDJ松永によるヒップホップユニット・Creepy Nutsは、2017年にメジャーデビュー。ユニットを結成する以前からそれぞれラップやDJの大会で受賞歴があり、国内では順調に知名度を上げてヒット曲も出している。

アニメ『マッシュル-MASHLE-』のオープニングテーマに選ばれた『Bling-Bang-Bang-Born』がヒットした理由として、アニメ主題歌の起用に加えてショート動画の効果も大きいだろう。アニメオープニングのサビの部分で主人公たちが曲に合わせてシュールなダンスを踊るのだが、振り付けを真似た「踊ってみた」動画が世界中でアップされたのだ。またキャッチーなフレーズとノリの良さもあり、「歌ってみた」動画も数多く上がっている。

Creepy Nutsとしては、サビに気持ちのいいフレーズを意識して制作したものの、アニメで踊るのは予想外だったようだ。オープニングアニメを担当した監督もバズることは意識せず直感的に制作したという経緯があり、本書では以下のように指摘している。

いわゆる「狙っている」ことが透けて見えるものほど、令和トレンドセッター層などを中心とした視聴者には敬遠されている傾向がある。

「令和ヒットの方程式」より

時代の流れは早く、音楽を聴く手段も聴き手の感性も移り変わってゆく。世界的なヒットナンバーを生み出した2020年代前半を経て、今後どのような人気曲が生まれるのか楽しみだ。

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タグ : レビュー・コラム

掲載: 2025年01月08日 11:45