実は毎日聴いているかも?テレビCMから炊飯器に給湯器にも……日常生活の中に溢れるクラシック音楽とは

クラシック音楽というと、“高尚”で“とっつきにくい”というイメージを持つ人が多い。しかし気づいていないだけで、クラシック音楽は我々の生活の中に溢れ、馴染んでいる。日常に溶け込んで見落とされがちなクラシック音楽を紹介し、我々とクラシック音楽の距離を縮めてくれる書籍が「生活はクラシック音楽でできている 家電や映画、結婚式まで日常になじんだ名曲」だ。本書を読めば、クラシック音楽に対するイメージが大きく変わるだろう。
●炊飯器に給湯器……毎日耳にするあのメロディもクラシック音楽?
日常生活を送るうえで必要不可欠な家電は、物によっては毎日使う。米を主食とする日本人は、特に“炊飯器”を使う機会が多いだろう。炊飯器の中には、炊飯ボタンを押すと『キラキラ星』が流れるタイプがある。童謡として有名な『キラキラ星』は、元々18世紀にフランスで流行した歌。のちにヴォルフガング・アマデウス・モーツァルトが編曲し、1778年にピアノ曲『キラキラ星変奏曲ハ長調K.265』に仕上げたそうだ。
炊飯器同様、使用頻度が高いのが“給湯器”。お風呂が沸くと「お風呂が沸きました」とアナウンスして教えてくれる、便利な家電だ。ノーリツ製の給湯器はお風呂が沸くと、お馴染みの音声アナウンスの前に、テオドール・オースティン作曲『人形の夢と目覚め』が流れる。オースティンは、モーツァルトやベートーヴェンほど知名度の高い作曲家ではない。数ある選択肢の中から、なぜオースティンの楽曲が選ばれたのか。ノーリツ社の広報に取材をしたという著者は、以下のように解説している。
1995年の製品開発当時、担当した社員の発案で、この曲に決まったといいます。この開発者は幼少期にヴァイオリンを習っており、その隣のピアノ教室に通う子どもたちが弾くこの曲が耳に残っていたというのです。それくらい、この楽曲は音楽教育の分野に広まっているということになります。 (※注)
作曲家であると同時によき教育者でもあったオースティンは、子どもから大人まで、あらゆる人が音楽に親しめるよう尽力したという。そんな彼が生み出した楽曲だからこそ、日本人の耳にも馴染みやすかったのかもしれない。
●テレビ番組・CMでオリジナル曲だと勘違いされているクラシック音楽
テレビ番組やCMに使われているクラシック音楽の中には、作品にマッチしすぎているがゆえに、クラシック音楽だと気づかれないものがある。例えば、軽快なリズムが特徴的な「キューピー3分クッキング」のテーマ曲を、番組のオリジナル曲だと思っている人は多い。実はこの楽曲は、ドイツの作曲家レオン・イェッセル作曲の『オペレッタ《おもちゃの兵隊の観兵式 作品123》』に含まれる1曲だ。
太田胃散のテレビCMで流れるのは、フレデリック・ショパンのピアノ曲『24の前奏曲作品28第7番イ長調』。“胃腸薬”のCMに“イ長調”の楽曲を選んでいるあたりに、制作者のユーモアが感じられる。
例としてテレビ番組とCMから1つずつ紹介したが、クラシック音楽を使用しているテレビ番組・CMは無数にある。あなたが「この番組のテーマ曲だ」と思っている楽曲も、本当はクラシック音楽かもしれない。
●運動会はクラシック音楽だらけ?
学校の運動会で盛り上がる、徒競走やリレーのシーンを想像してほしい。腕を振って走り抜ける子どもたちの映像と共に、アップテンポな曲が思い浮かばないだろうか。
生徒たちの闘争心を煽るようにこんなシーンではジョアッキーノ・ロッシーニ(1792~1868)作曲のオペラ《ウィリアム・テル》序曲・第4部「スイス軍隊の行進」がよく登場します。 (※注)
著者いわく、馬が疾走する様子を表しているようなこの楽曲は、徒競走やリレーのBGMに最適なのだという。
運動会といえば、もう1つ忘れてはいけないのが、ジャック・オッフェンバック作曲の『オペレッタ《天国と地獄》序曲』だ。こちらも運動会に高確率で採用されるクラシック音楽で、疾走感のあるテンポの速いメロディとなっている。
授業で習うような偉人が遺した高尚な音楽……そう考えると、クラシック音楽は確かにとっつきにくい。しかし、炊飯器のあのメロディ、テレビでよく見るあのCMの曲だと考えれば、途端に身近なものに感じられるだろう。クラシック音楽に興味があるけれど難しそうで手が出せないという人は、ぜひ本書を参考にして、生活に溶け込んだ楽曲から触れてみてほしい。
(※注)渋谷ゆう子「生活はクラシック音楽でできている 家電や映画、結婚式まで日常になじんだ名曲」より引用
※紹介されている楽曲は紹介文の下に掲載されているCDに収録されています。
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掲載: 2025年05月02日 18:41

