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「イグアナの娘」「11人いる!」名作誕生に隠されたエピソードを漫画家・萩尾望都が明かす

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マンガ「ポーの一族」などを手がけ、第21回小学館漫画賞、第1回手塚治虫文化賞マンガ優秀賞といった数々の受賞歴がある漫画家・萩尾望都。彼女の著書「萩尾望都という物語」には、彼女が客員教授を務める女子美術大学でおこなわれた特別講義の内容が収録されている。本書を読むと、これまで萩尾が生み出してきた作品にまつわる誕生秘話や、彼女自身の生い立ち、マンガを描くうえでのポイントなど、“漫画家・萩尾望都”を形作るものが垣間見えてくる。

●親との相容れない関係性から生まれた「イグアナの娘」

1949年に福岡県で生まれた萩尾。彼女の両親はマンガをまったく読まずに育った世代だったため、漫画家を目指す萩尾とは長らく対立していたという。

私が漫画家になりたいと言ったときには頭から大反対です。なんでそんな、つまらないものを描くのか。童話の挿絵画家になるならまた別だけれど、漫画なんて子供が読むものじゃないか。あんなものは平仮名が読めるようになったら卒業するものです、と。

職業として漫画家を選んだのは、単純に漫画を描くのが本当に好きだったからなんです。だから、描くこと自体は楽しくて、苦労ではありませんでした。では何が大変だったかというと、編集とのバトルでもなく、とにかく親との関係が大変だったんです。 (※注)

両親に反対されているさなか、萩尾は強引に作品を雑誌へ投稿して漫画家デビューを果たす。のちに彼女が発表した作品の中には、親に自分の気持ちを理解してもらえない葛藤を昇華したものも。それが、イグアナの姿をした女の子と人間の親との関係性を描いたマンガ「イグアナの娘」だ。

どう話してもまったく通じないって、いったいなんなのだろう。話している言葉が違うのではないか。もしかしたら私は人間じゃないのかもしれない。人間じゃないから、話しても通じないのかもしれない。それで『イグアナの娘』という話が生まれました。

本当は人間の女の子なんだけれど、自分をイグアナだと思っている、そういう子の話です。 (※注)

●「11人いる!」の原点は宮沢賢治の童話

萩尾といえば、SFを取り入れた作風でも知られる漫画家だ。例えば彼女が描いたマンガ「11人いる!」は、宇宙大学の入試をテーマにした作品。「53日間生き延びるテストのため10人の登場人物たちがチームとして宇宙船に乗り込んだはずが、船内に実は11人いることに気付く」という冒頭が印象的である。そしてこの作品にも、着想を得るきっかけがあったのだと萩尾は語る。

宮沢賢治の童話に『ざしき童子のはなし』というのがあるんです。短いお話なのですが、面白いんです。あるお屋敷に子供たちが10人集まって遊んでいました。ところが、数えてみたら11人いました。どれも知っている顔だし、誰が増えたのかわかりません。「こんなのがざしきぼっこです」というんですね。

10人いたのに、いつの間にか一人増えて、それが誰かわからないという発想が面白くて。これだけでゾワッとしますよね。それで、これをネタにSFを描こうと思いました。 (※注)

●キャラ造形の肝は“バランス”

萩尾の特別講義は女子美術大学でおこなわれたということもあり、本書ではマンガを描くうえでの表現方法についても触れられている。例えばキャラクターをデザインする際、「どういうバランスで描くのかが一番難しい」と萩尾は言う。

中学・高校時代の萩尾は、水野英子や手塚治虫といった漫画家の描く絵を参考にしていたのだそう。しかしその後にファッションの専門学校へ通った際、「人間の身体は8頭身で描くと服が映える」と学んだのだという。

頭を1として、くるぶしまでが8というバランスです。そうすると、脚から上が4のバランスになります。 この描き方を一回覚えると、どんなに長い服を着せても短いスカートを履かせてもバランスが取りやすい。脚が見えていても、見えていなくても格好よく見えます。だから基本中の基本なんです。重宝しました。 (※注)

また萩尾曰く、キャラクターの持つ雰囲気や性格を表すためにあえて頭身を変えるという手法もある。まさに頭身のバランスは、キャラクターを生み出す際の“肝”なのだ。

「萩尾望都という物語」には、マンガにまつわるここでしか見られない内容がたっぷりと盛り込まれている。マンガをよく読む人・マンガを描くのが好きな人は、ぜひ手に取ってみてほしい。

※注:萩尾望都「萩尾望都という物語」より引用

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タグ : レビュー・コラム

掲載: 2025年05月27日 10:35