インタビュー

eater

〈daisyworld〉期待の新星による、公園とダンス・フロアを繋ぐエレクトロニカ


 SKETCH SHOWの一連の作品や高木正勝のソロ・アルバムなど、今まで以上に勢力的にリリースを続ける細野晴臣主宰レーベル〈daisyworld〉からこの秋、関西を中心に活動するeaterこと香川功樹がデビュー・アルバム『quadraphonic』を発表した。その楽曲は、メロウなノイズの断片が複雑に絡み合う〈室内楽=エレクトロニカ〉、もしくはキックとベースのグルーヴが腰を揺さぶる〈ダンス音楽=ディープ・テクノ〉、そのどちらでもあるしどちらでもないといえる。酔えて、踊れて、不思議とポップ。eaterとしては昨年、〈daisyworld〉のコンピ盤『strange flowers vol.1』に参加のほか、PROGRESSIVE FOrMからも作品を発表している香川だが、そもそもはグランジ系のバンドで活動をしていた。その後半野喜弘にDTMを師事、関西伝説の民族音楽バンドPSYCHO BABAの一員としての活動を経て、今の打ち込みスタイルになったのだという。

 「長年バンドばかりしていましたが、たとえ数年間だけでも1人で活動する事っていい経験になると思ったんです。自分が1人で制作した曲にも出会ってみたかったですし。実際やってみると、さぼっても誰も尻をたたいてくれないし、煮詰まっても自分でどうにかするしかない。そのかわり喜びも沢山返ってきますけど(笑)。あと周囲で、半野喜弘さん、青木タカマサ君、MATI:K……その他沢山の人がコンピューターを使った演奏を成功させていて、刺激や影響を受けました。こういう人達に縁があった事は、ほんとにありがたいですね」。

 多くのラップトップ・ミュージシャン同様、彼もライブ・パフォーマンスを勢力的かつ身軽にこなしているが、「活動のフィールドがクラブだったんで、(自身の作品をダンス・ミュージックとして)自動的に意識するようになったみたい。でもそれに固執はしていません」と気づけば適度にダンス・フロア対応に。一方で、その心地よいグルーヴを包み込むストリングスの東洋的なハーモニーや、SEの音像はとにかく色彩豊かで映像的だ。彼は制作の際、近所の公園でノート・パソコンを手に作曲作業をすることもあるというが、その楽曲群にはどのような原風景があるのだろうか。

 「特別な風景とかではなくって、育った町の川や踏切や町なみとか、そういう身近なものです。昨今は音楽も映像も一人で作るという人も多いので、そういう事(映像を作ること)も一瞬考えたのですが、音楽のみからイメージを感じてもらうほうがいいと思ったんです。自分を主張し過ぎる事によって、相手(聴き手)の想像の可能性を塗りつぶす事もありますから。シンプルにするための知恵に出逢った時の方が、自分には刺激的なんです」。

 独特の座標軸で描かれる音像の裏にある、空間哲学。どうやらeaterという名前にもその考えが表れているようだ。

 「eaterは、〈食べる人〉とか〈定食〉みたいなイメージなんです。定食は、ご飯や味噌汁や魚とか野菜とかが全部そろっているところがいい。ものすごい美味しい魚だけ食卓にあっても困るんですよね。全部がバランスよくあってこそ、お魚も美味しくいただく事ができる。音楽も、バランスが魅せる神秘を含んでいますから」。

 eaterの理念が反映された『quadraphonic』。それは超高音域から低音域まで、ダンス・フロアからベッド・ルームまで、様々な角度から〈バランスが魅せる神秘〉を堪能できるアルバムだ。

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カテゴリ : ニューフェイズ

掲載: 2003年10月02日 21:00

文/原田 亮