COUCH
メロウかつアグレッシヴなアンサンブルとリアルな言葉たち──あのbenzo活動休止後、平泉コージが結成した3ピース・バンド、COUCH
benzoという名前にどれくらいの人が反応するのかわからないけど、少なくとも良心的な音楽ファンのあいだではスティーヴィー・ワンダーとシュガーベイブの遺伝子を引き継ぎながら、真にメロウなグルーヴを量産してきたかけがえのないバンドとして記憶されているに違いない。それはきっと活動を休止したbenzoのフロントマン、平泉コージにとっても同じだろう。
「僕はやっぱり音楽活動=バンドみたいな感じが強いんで、benzoの活動のあとになんとなく軽い気持ちで次のバンドっていう発想にならなくて。ちょっとどうしたらいいのか思いつかなかった。なんかエネルギー源となるようなものがなかったですね。ガス欠みたいな感じ。で、誘われて弾き語りなんかもやるようになったんですけどね」。
活動休止の余韻をひきずるなか、1年以上にわたるソロ・アコースティック活動を経て彼が組んだ新しい3ピース、COUCHを構成するのは、セッション・ドラマーとして定評を誇る小島徹也、シアターブルックの一員としても活躍するベーシスト、中條卓。当然そのバンド・アンサンブルはbenzoのそれともイイ意味で趣を異にしているが、とりもなおさず平泉コージが帰ってきた喜びを噛み締めるに充分な裸の歌心に溢れたファースト・アルバム『今日風、』をじっくりと堪能したい。
「benzoのファーストとかの感じに近いのかなって思ったんですけどね。自分にとってフラットな状態。benzo以前の感じ? 自分的にはそうかもしれないですね。そういうところに立てたかな。いい意味で練りこんでない部分もあるし、バンドができたてで曲をポンポン作った時期でもあって、一曲のなかにいろいろ盛り込むっていうことがなかったですね。〈一口感〉っていうか」。
そう彼が言うように『今日風、』に収められた楽曲たちは、キーボードが入っていないことも関係してるんだろうけど、どれもザックリとした手触りを持ち(もちろん細部はキッチリと作り込まれているが)、その曲調/歌詞/歌に滲む前のめりで性急な感じに彼のいまの気持ちが表れている。
「ここにきてちょっとおかしいですけど、若気の至りみたいなのが(笑)。やっぱトリオっていう形態だからそういう作風になってるのかもしれない。昔はソウル・ミュージックに影響されてた部分は強かったんで、横ノリでちょっとたまった感じだったと思うんですけど、いまはそういうものを作ろうとは思わないかな」。
平泉独特のメロウネスを核に、よりハードに練り上げられたバンド・アンサンブルに乗る歌詞も興味深い。とくにアルバム・タイトル同様、〈風〉という言葉が頻出する理由には、本作にいる平泉コージのもうひとつの側面が覗けたり。
「たぶん今回の作品はなにかに誘われて出来たものだと思うんですよね。だから詞の内容も風が吹いてきて、それによって自分が動いていく、みたいな。次の作品とかから変えていったらおもしろいと思いますけどね。自分が逆に風のようなものを起こすような」。
とにもかくにも平泉コージは、COUCHは動き出した。それだけで充分だ。アルバム・タイトルの最後に〈。〉ではなく〈、〉と付けられているのは、これから続く起伏に溢れたロードを示している。きっと平泉コージは、そのかけがえのない歌声でそれを乗りこなしていくに違いない。
・COUCH 『今日風、』 収録曲目
1.風船
2.フォトフレーム♪フルレングス試聴する
3.放課後
4.今日風、
5.恋人♪フルレングス試聴する
6.長距離バス
7.bird
8.時計
9.生まれた街で