PONY
ささやかな日々の心象風景とその先にある〈音楽の秘境〉
ラブクライの三沢洋紀と元ゴールデン・シロップ・ラヴァーズの長辻利恵という、珠玉ソングライター二人によって、2003年春に結成されたサイケデリック・フォーク・ユニット、PONY。活動開始当初から、ダニエル・ジョンストンやジャド・フェアなど、アメリカン・オルタナティヴの伝説的ミュージシャンの関西来日公演オープニング・アクトを務めるなど、確かな筋でじわじわと噂を呼んでいた。
「そもそも最初は、ダニエル・ジョンストンの来日公演で僕のソロか何かアコースティックのもので出ませんか? って誘われたのがキッカケで。その時にPONYという名前と、長辻のことが頭に浮かんだ。前から長辻とはやってみたかったし、ソングライターとしても素直ないい曲書くなあと思ってて、声も好きだったから。当初はそんな長辻のキャラクターを生かした、サイケデリックでフォーキーな感じのものをやりたくて。音的にはティラノザウルス・レックスとか、シド・バレットとか、デヴィッド・ボウイの初期やヴェルヴェット(・アンダーグラウンド)なんかがイメージとしてありましたね」(三沢洋紀:ギター、カシオトーン他)
限りなく近しい関係の二人(*長辻と三沢は生活を共にするパートナーでもある)だからこそ描き出せる、微妙なトーンや陰影による水墨画さながらの音響世界を根っこに、bonobosやカルカヤマコトを始め、関西の音楽シーンで引っぱりだこのパーカッショニスト、千住宗臣が加入して以降のPONYのサウンドは、よりポップにカラフルに〈外界〉へと枝葉を広げてゆく。
「2人でしばらくやったけど、やっぱりバンドが好きなんですね。音的に飽きてきて、リズム物を入れたいと思った時に、ドラムというよりパーカッションもできる人がいいなあって。思い浮かんだのが、前々からひそかに注目していた千住君。彼はインプロもジャズもロックも何でもいけて、音に瞬間的に反応する、いわばリズムで出来ているような人。で、声をかけたらやると言ってくれて……。僕そのときベースも欲しいなあって千住君に言ったんですよ。でもベースは無い方がバランス的に面白いじゃないかって言われて、結果的にはそれが良かった。千住君は性格がやわらかい人で長辻との相性もいい。彼がPONYに入った事でやりたい事がより確実にわかってきたし、出来る事の幅も広がりましたね」(三沢)
そんなステップを経て、ついに届けられた初音源集は、その名も『leafsongs』。どこか懐かしい〈匂い〉や〈湿り気〉をおびたメロディー。何処からともなくふと漂う〈気配〉にも似た透明な歌声。ちょっと枯れたロード・ムーヴィー的躍動を刻むギターと浮遊するパーカッション……。3曲のSEをはさみながら、丁寧に綴られた13編の葉っぱが描き出す心象風景は、どこか寓話的なリアルさをはらんでいる。
「なんとなく無農薬の野菜をつくるようなイメージがあって、それなら自分で録るしかないなって、自宅でレコーディングした。その頃は他人の癖や場所の雰囲気なんかで録り音が決定してしまうことに疑問を持ってて……。でも言うとやるとでは大違いで大変でしたね」(三沢)
「私が妊娠してたこともあって、なかなかスケジュール通りに録りが進まなかったり」(長辻利恵:ヴォーカル、アコースティック・ギター他)
「で、出来上がってみると農薬だらけだったりして……そんなこともないか(笑)」(三沢)
ハッタリもなければ衒いもない。素朴なようで聴けば聴くほど不思議な表情をかいま見せる本作は、平凡な生活の中にこそ〈音楽の秘境(センス・オブ・ワンダー)〉があることを改めて気づかせてくれる。
「前は自分で詩や曲を書いててもバンドと自分の間にどこか距離があったけど、今は自分のことのようにPONYの音楽のことを考えてる」(長辻)
「子供も生まれたことやし、その事もきっと音には影響してくると思う。ささやかな日々の音楽をPONYではこれからも届けて行きたいですね」(三沢)
『leaf songs』
1. SE ~ポニー、山に登る~
2. FALLIN'(フルサイズ試聴♪)
3. ふわり
4. 夕陽のモビール
5. Mr. Tangerine
6. SE ~ポニーの洞窟~ (フルサイズ試聴♪)
7. ALL THE WAY DOWN
8. メロディー
9. ぴかぴか
10. 空熱
11. SE ~ポニーの青空~
12. HOLIDAY
13. おやすみのうた