インタビュー

lostage


 これがメジャー第1弾になるわけだが、その表情と言葉に気負いはない。グランジ、ハードコア、エモなどを呑み込んだオルタナティヴ・ロックのディープなスタイルを貫いて、ふっと気付いたらボーダーラインを越えていた的な、ごく自然なバンドの進化と音楽性の拡張が彼らをそこへ導いた。lostageの現在位置について、五味岳久(以下同)は語る。

「意識は変わりました。外に向かって広げていこうという気持ちになっているんで、それが曲作りにも反映されている。単純にキャッチーにするとかそういうことではなく、ミックスのやり方とか微妙な違いですけど。〈メジャー1作目〉という感じになっていると思います」。

 確かに、2004年のミニ・アルバム『P.S. I miss you』、そして2006年リリースのファースト・フル・アルバム『PLAY WITH ISOLATION』と比べても、演奏力、表現力、そして耳に残る歌の鮮烈さが違う。「家にあるCDの9割が90年代のもの」という、筋金入りの90年代オルタナ世代である五味岳久は、今回もその時代のCDをスタジオに持ち込んで参考にしようとしたという。が、結論は「いまのバンドの音を鳴らすしかない」だった。

「90年代の音にしたいと思って、その頃使っていたマイクを使っても、結局はいまの音に絶対なるんですよ。好みは90年代だけど、それを受けていま自分はどうするか?というのがテーマだったりします」。

 ニュー・アルバム『DRAMA』は、刺激的な変拍子とヘヴィーなベース、ハード・ロックのカタルシスを持った痛快なギターのリフに、一度聴いたら絶対に忘れない五味のハイトーン・ヴォイスが絡みつく“RED”で激しく幕を開ける。ここでビビッてヘッドフォンを外したら損をするだろう。続いて登場する、キャッチーな明るいメロディーを持つギター・ポップ・スタイルの“こどもたち”に引き込まれ、4曲目のメロウなミディアム“ドラマ・ロゴス”の哀愁を帯びた美しい歌を聴く頃には、lostageがどんなバンドなのか、長く聴く価値のある音楽なのか、その答えが出ているはずだ。

「詞と音と歌と、全部のものが並列に並んでいるのがバンドの理想だと思います。純粋に音のバランスですね。でも今回は前作に比べると、歌であること、メロディーを活かすことに重点を置いてやっていると思います」。

 lostageの歌詞は独特だ。詞というよりも詩と呼びたい、韻と響きを重視した言葉が折り重なり、シュールな、しかし異様に肉感的で斬新なイメージを作る。それでも聴き手には共鳴してほしい、と五味は言う。

「〈何が歌いたいんですか?〉って訊かれて、いつも〈わかりません〉って答えるんですけど、何もないわけじゃない。ないわけじゃないけど、あるものが何なのかわからない。でもそれが大事なものであることはわかっている。そういう音楽をやりたいんです。〈わからない〉ということで共振して、よくわからないけど感動してほしいんです」。 

 彼らは7月の終わりから2か月に渡って、〈DRAMATIC TOUR 2007〉と題した全国ツアーに出る。ライヴ・パフォーマンスのインパクトの強さは、インディー時代から評判が高かった。まずはふらりと、身近のライヴハウスで彼らに触れることから始めるのもいい。

「曲を演奏してる時に、一瞬のカタルシスはあると思うんですけど、曲が終わった瞬間になくなってしまう。一瞬だけ。でもそれがあるからやってるんだと思います」。 

 音楽を作って演奏することでカタルシス(浄化作用)を感じている?という質問に対し、五味岳久はそう答えた。そして「出口がなくても、同じところでも、止まらずに動き続けることに意味がある」と付け加えた。それこそが〈lostageの歌いたいこと〉なのだと強く思う。

PROFILE

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五味岳久(ヴォーカル/ベース)、五味拓人(ギター)の兄弟と、清水雅也(ギター)、岩城智和(ドラムス)から成る4人組。2001年に奈良で結成され、関西圏を中心にライヴ活動を開始。ドラマーの交代を経て、2002年に現在の編成になる。精力的なライヴ・パフォーマンスを繰り広げる一方で、自主制作のCD-Rやデモテープの発表を重ねていく。2004年にはUKプロジェクト内に自身のレーベル=qoop musicを立ち上げ、そこからミニ・アルバム『P.S. I miss you』をリリース。同年には初の全国ツアーを行う。2006年にはファースト・フル・アルバム『PLAY WITH ISOLATION』を発表。このたび、レーベル移籍第1弾の『DRAMA』(トイズファクトリー)をリリースしたばかり。

カテゴリ : インタビューファイル

掲載: 2007年07月26日 20:00

ソース: 『bounce』 289号(2007/7/25)

文/宮本 英夫