インタビュー

Randolph

雄大なデトロイト・ソウルの銀河にまたひとつ、新しい煌めきを放つ大粒の輝きが生まれた!!


 デトロイトから次々と登場する、ソウル・ミュージックの伝統と革新性を兼ね備えたアーティストたち。その燃え盛るソウルネス~ファンクネスは音楽シーンを覆い尽くさんばかりだ。そんなデトロイトにおいて、超絶ベース・プレイとスウィートな歌唱を活かして数々のセッションや作品に参加してきた(ポール・)ランドルフが、過去と現在と未来を継ぐソウル/ファンク・ナンバー目白押しのフル・アルバム『Lonely Eden』を完成させた。

「アンプ・フィドラーのバンドを離れてすぐに曲を書きはじめたんだ。仕上げるまでに1年半かかったけど、自分が何をしたいか、どんな音にしたいかは明確だったし、取りかかるのは簡単だったよ」。

 音楽に溢れる家庭で育ったランドルフは、初めはギターやパーカッションを学んでいたが、「俺のヒーロー」だというジャコ・パストリアスに出会ってベーシストに転向。16歳でプロのミュージシャンとしてデビューし、ジャズやロック、ファンク、レゲエ、ブルース、ソウルなどをプレイして自身の基礎を作り上げた。そこに未来的感覚を植え付けたのがアンダーグラウンド・レジスタンスのマッド・マイクことマイク・バンクスだ。

「バンクスと俺は10代の頃からの仲だよ。バンドでもいっしょにプレイしたし、ドラム・マシーンやシンセでいろんなことを試した。それから数年会ってなかったけど、ある時、彼がデトロイト・テクノやハウスに関わっているって聞いてね。それでまた繋がりができて、バンクスが俺にテクノやハウスがどんなものか教えたんだ。そうして出来上がったのが、ソウル・シティからヴァン・レン名義でリリースした“Real Thang”さ」。

 そこから彼のキャリアは急速な展開を見せていく。マッド・マイクを通じてカール・クレイグと知り合い、これがインナーゾーン・オーケストラの歴史的名作『Programmed』(99年)への参加に繋がり、かつて同じバンドにいたこともあったというアンプを通じてムーディーマンと出会い、彼の主宰するマホガニー・ミュージックからミニ・アルバム『This Is...What It Is』(2004年)をリリース。今回の『Lonely Eden』はそれらの経験を糧にした作品なわけで、安易なパーティー・トラックや甘いだけの空虚なバラードなどは皆無だ。あるのはコズミックで心地良い揺らめきとファンキーなグルーヴだけ。

「“Claim”で歌っているように〈自分は器のようなもので、それは導線やレコードの溝のように、ひとつの経路にすぎない〉。自分への影響を自分自身で消化している感じかな。それに俺にはブルースやソウル、リズム&ブルースといった伝統的な音楽の土台があって、それがどこから来たのか、どこへ行くことができるのか、はっきり理解しているよ」。

 前述のマッド・マイクやアンプに加え、アンドレスことDJディズ、ワジードなど才気溢れるメンバーが結集した『Lonely Eden』。デトロイト好きだけでなく、単純に〈音楽が好き!〉という人にこそ聴いてほしい極上の曲が揃っている。彼がこれまでの裏方的なポジションに留まる才能ではないということも、この揺るぎない自信作に触れてみれば瞬時に気付かされるはずだ。

▼ランドルフの作品/参加作を一部紹介。

カテゴリ : インタビューファイル

掲載: 2007年07月26日 20:00

ソース: 『bounce』 289号(2007/7/25)

文/青木 正之