MAVADO
ダンスホール界でもっともデンジャラスな男、マヴァードになぜ人々は熱狂するのだろうか?
7月19日未明、ジャマイカ、モンティゴベイ。世界最大のレゲエ・フェス〈サンフェス〉に登場したマヴァードの背に縫い取られていたのは、〈The World Is Mine〉の文字。確かに。人気度がダイレクトに反映される通称〈ダンスホール・ナイト〉において、レディ・ソウ、ヴァイブス・カーテル、ニンジャマン、そしてエレファント・マンの次という若手としては異例の出番に置かれ、それを正当化するかのようにMCが観客に〈誰が観たいんだ!〉と問いかけると〈マヴァード!〉の声が真っ先に挙がった。
ここ1年半、ダンスホール界の頂点をめざして突っ走ってきたマヴァードのファースト・アルバム『Gangsta For Life -The Symphony Of David Brooks』は、もう確認済みだろうか。副題どおりマヴァードの人生観を紡いだ収録曲のほとんどが、すでにジャマイカ人のアンセムになっている超強力盤だ。社会の不公平に対する怒りを、銃の比喩を多用した血みどろのリリックにぶつけるのが彼のスタイルで、ゆえに保守層から強い非難にさらされている。
「アーティストが暴力的な曲を作っているからといって、事態が悪化するのはあり得ない。暴力を生み出すのは俺たちじゃない。仕掛けているのは政府のほうだ。そこを棚に上げて俺たちに文句を言うのは筋違いだ」と語気を強めるマヴァード。リリックは激しいが、系譜としては正統派美声シンガーに属し、同じカサヴァピース出身のサンチェスを敬愛している。USのアーバン系ラジオ局のローテーション入りを果たしても、共演希望は「エイコンとあのアイランド・ガール(=リアーナ)」とあくまでレゲエに近い人脈にこだわり、自分が属するアライアンスのドン、バウンティ・キラーに忠誠を誓う。
「キラーはアーティストとしても別格だ。神様はわれわれ全員を違う目的で作った。ジャーは若者を育てるためにキラーをこの世に送ったんだと思っている。彼のヘルプで脚光を浴びたアーティストは多いよ。(ヴァイブス・)カーテル、エレファント・マン、マヴァード……みんなそうだ」。
〈サンフェス〉のステージの最後、〈俺は生まれも育ちもゲットーだ。みんなの辛さはわかってる〉と歌う“Born And Raised”を切々と歌い上げ、会場中から喝采を浴びた。マヴァード人気は暴力ではなく、彼の心意気から生まれたのだ。ぜひ、その心意気を買ってほしい。
▼〈Gangsta For Life〉に参加したアーティストの作品を紹介。
カテゴリ : インタビューファイル
掲載: 2007年08月30日 16:00
更新: 2007年08月30日 17:33
ソース: 『bounce』 290号(2007/8/25)
文/池城 美菜子