サカナクション
テクノを前面に押し出したバンド・サウンドとフォーキーなメロディー、情感豊かな言葉を掲げ、アンダーグラウンドとオーヴァーグラウンドのあいだを果敢に歩み続けるサカナクションが、サード・アルバム『シンシロ』を完成させた。自らのポップ感と対峙した先行シングル“セントレイ”を起点とした本作において、彼らは極彩色で縁取られた独自のニューウェイヴ解釈を披露。ロックとダンス・ミュージックの架け橋となる先鋭的なサウンドと人間味溢れる歌によって、頼もしいネクスト・ステップを踏んでいる。
そんな彼らの最新作を、bounce.comでは3週に渡って大フィーチャー。その第三週目では、メンバー全員による座談会……という名の反省会(!?)を貴重なオフショット付きで大公開! 5人が語る真っ正直な言葉の数々からは、本作の制作中に辿った5者5様の変化を垣間見ることが出来る。
※2時間以上に渡る山口単独インタヴュー(第一回はこちら、第二回はこちらからどうぞ!)を経て、ほかの4人のメンバーが登場。サカナクション+筆者でほぼ車座の状態。
山口一郎(以下、山口) 照れますね(笑)。
――そうですか(笑)? 山口さんには、出来るだけ司会をサポートして頂けると助かります。では、早速始めますね。
全員 よろしくお願いします!
――今回のアルバムは、山口さんによる原曲を5人それぞれで分担してアレンジをするという方法が取られましたが、みなさん、初めてそう言われたときはどう思いましたか?
岩寺基晴(ギター:以下、岩寺) 単純に、どこまでできるんだろうな、って思いましたね。やってみないとわからないことが多かったので、ワクワクした感じで。
――「ええ~っ!?」っというよりは……。
岩寺 楽しみでしたね。
山口 (岡崎に向かって)一番「ええ~っ!?」って感じだったよね? たぶん。
岡崎英美(キーボード:以下、岡崎) 不安でした(笑)。
山口 一番泣いたよね。
岡崎 2回か3回くらい泣きました。
――「あたしったら不甲斐ない……」みたいな感じで?
岡崎 (笑)そうですね。でも、得たものはすごく大きかったです。
山口 草刈が一番動揺してなかったですね。
――何だか、すべてにおいて動じなさそうな印象です。
草刈愛美(ベース:以下、草刈) 別の機会にデモを作ったことはあったので、そのままやってみた感じです。
山口 ひとりひとりデモを持ってくるじゃないですか。それぞれクオリティーも着眼点も違うんですよ。一番、曲として完成している状態で持ってくるのが草刈。ほかのメンバーは、途中過程みたいな感じで持ってくることが多かった。
――今回の先行シングルでもあり、アルバムの起点である“セントレイ”のアレンジは草刈さんですよね?
草刈 はい。
――で、山口さん単独のインタヴューでは、敢えてメンバーそれぞれの嗜好やフィーチャーしたい楽器と切り離した選曲でアレンジを担当してもらったというお話だったんですが、“セントレイ”の〈ギター・ロック〉というお題には、どういう風に取り組まれました?
草刈 私、元々はギター・ロックとかパンクとかをやってて、ダンス・ミュージックをやるようになったのは最近なので、以前に戻った感じでした(笑)。初期衝動的な勢いを懐かしく思いながら、「ギター、こうやってカッコよく弾いてほしいな」って作ってましたね。
岩寺 それ、以前って言ってもホントにだいぶ前だよね(笑)。
山口 10代でしょ(笑)?
草刈 そうそう(笑)。その頃の気持ちが、少なからず入ってると思う(笑)。
山口 俺やもっち(岩寺)は、草刈が違うバンドをやってた頃から知ってるんですよ。
岩寺 前のバンドが解散した後に、草刈が別のバンドを何個かやってた時期があって。そのときの印象が強いんですけど、ギター・ロックじゃなかった。
山口 だから、草刈のデモ聴いたときに、俺ともっち、目が点になったよね(笑)。「もっち、どうすんの?」「一郎、これ大丈夫?」みたいな感じで(笑)。
草刈 一郎くんから、「10代の人も楽しめるようなアレンジに」っていうリクエストがあったから、前やってた頃の気持ちを思い出してみて。そう言えば、単純なところに楽しさがあったなと思って、勢いで作っていきましたね。自分でもちょっと恥ずかしいぐらい(笑)。
山口 “セントレイ”のデモって(アルバム制作の)結構初期で、たとえとしては「真っピンクのダウンを着ろ」みたいな話を俺がみんなに言って、みんなは「真っピンクはちょっとキツイわ」っていう段階だったじゃん。だけど、どんどんコラージュしていくなかで、それぞれのパートが「真っピンクだけど、それがいい」「ポップだけど、俺たちっぽいポップにしていこう」っていう方向に一気に向いたっていうか。
岩寺 そうだね。
山口 江島の“黄色い車”とか、それ以降のデモも、ポップだけど何とか出来るんだっていう自信にはなってったよね。
岩寺 そうだね。“セントレイ”のデモが出来てさ、スタジオに入って2Aが出来たじゃん。あれはデカかったね。
草刈 デカかった(しみじみ)。
岩寺 デモのまんまのギター・ロックはストレート過ぎるってことで、「何とかできないか」っていろいろやっていくうちに自然発生的に出てきたのが、2回目のAメロのダンス・ビートのところなんですけど、そこが出来て、ようやく真っピンクに自分たちの色を混ぜることができた。そこで納得出来たのはすごい大きかったですね。
――わりと早い段階で、サカナクションとしてのポップ感をひとつ提示出来た。
草刈 そうですね。
――ただ、本作の制作に入る前までは、やっぱりみなさん、真っピンクのダウンを着るのにかなりの抵抗があった?
江島啓一(ドラムス:以下、江島) 基本的にひねくれてるんで、ストレートなことをやりたくない(笑)。恥ずかしい(笑)。「そういうやつとは違うんだ」って、イキがってた時代があった気がする。
草刈 みんな思ってたと思う(笑)。
江島 札幌でやってたときは、ほかのバンドと違う色を出したいみたいな気持ちが強かったから、ストレートなロックだけだとちょっと恥ずかしいみたいな部分もあったんですけど、今回“セントレイ”ができたことによって、そういうテイストもアリなんだ、俺らっぽくできるんだってことは、みんな感じれたと思います。
山口 ひねくれてそれをやらないっていう反骨精神だけじゃなくて、やるけど自分たちらしく出来るんだっていう方向にシフト出来た感じがありますね。サカナクションらしさは残したまま、変化させられるんだって。
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