People In The Box 『Ghost Apple』 CROWN STONES
“月曜日/無菌室”“火曜日/空室”“水曜日/密室”“木曜日/寝室”“金曜日/集中治療室”“土曜日/待合室”“日曜日/浴室”と題された各曲のタイトルからも予想されるように、People In The Boxの新作は、7編の物語が連なってひとつの〈世界〉を創出するコンセプチュアルなミニ・アルバムだ。
冒頭は〈月曜日〉。遠くから聴こえてくるのは、大道芸人が手にする手回しオルガンの旋律だろうか? ノスタルジックな音色に誘われて記憶の底に潜り込む意識を引き戻そうとするかの如く、クリアに鳴り響くギターのアルペジオ。ふと気が付けば、聴き手は〈世界〉の入り口に佇んでいる。変拍子を多用して転調を繰り返すことでドラマ性を増幅させながら、恐ろしく流麗な印象を与えるギター・ロックがこのバンドの真骨頂だが、楽曲が纏う鮮烈な美しさと瞬時に〈世界〉を立ち上げるまでの構成力が、本作では既発の作品と比較して格段に磨かれたような気がする。だからこそ、日常的な言葉/固有名詞をシアトリカルに散りばめることで独特の作風を獲得した詩世界――〈現代の叙事詩〉とも言える歌詞にもしっかりと寄り添うことができるのではないか。
人も神も等しく住まう箱庭のような世界を舞台に、主人公が抱える喪失感、原罪にも似た罪の意識をファンタスティックに描き出した本作。轟音の彼方に祈りの声が響く〈火曜日〉、アグレッシヴにドライヴする〈水曜日〉、どこかコミカルな〈木曜日〉、メロディアスな歌が飛翔する〈金曜日〉、アコースティックに沈む〈土曜日〉、3つの音塊がダイナミックに起伏する〈日曜日〉……そして7日間の終わりは、そのまま〈月曜日〉の始まりへと繋がっている。童話的でありながら、現実世界で営まれる日々の暮らしそのものを音楽で綴っているかのような、不思議な感覚を呼び起こされる作品だ。
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