ギターウルフ 『ジェットサティスファクション』
さあ、ヴォリュームの調整はOKかい? 最高に格好良いロックンロールを爆音でブッ放す狼たちが約2年ぶりに帰ってきたゼーーーッ(ト)! 水木一郎ばりのシャウトが飛び出す“ビルディング Z”をはじめ、みずからの毒が噴出した楽曲と対峙し、気合いと勇気で乗り越えた末に新しい地平へ到達したギターウルフ。そんな新作『ジェットサティスファクション』について、中心人物のセイジ(ヴォーカル/ギター)に話を訊いた。
オレたちはロック天才集団
――セイジさんの1年間の休養を挟んで2年ぶりの新作ですけど、久し振りのレコーディングの感想は?
「自分としてはなんかちょっと新鮮な、新しい感じの曲を作れた気がする。いままでにはないような。まあ、出来てみりゃ、他人から見ればいつもと変わらない、相変わらずのギターウルフの曲に感じるのかもしれないけどね」
――レコーディングは調子よくいきました?
「うん、調子良かったね。5日間ぐらいでパシッと。曲もだいたい出来てたし」
――今回も、これまでどおり3テイクぐらいで決まった?
「そう、いつもとノリは同じ。“ジェットサティスファクション”なんて、コードをみんなにポンポンと教えて、ちょっと合わせてみて、〈よーし、じゃあ、やってみよう! 1、2、3、4〉でやった一発目のテイクなんだよね(笑)。〈よーし、次、本番いこう〉ってやっても一発目のテイクの勢いを越えらなくて、結局、一発目を使った。そもそもオレたちはロック天才集団ですからね(笑)。一発でできるんだよ」
――“ジェット サティスファクション”は〈ヘイ! ヘイ! ヘイ! ヘイ!〉っていうサビも最高で、ライヴでの盛り上がりが目に見えるような曲ですね。もう、ライヴではやってるんですか?
「やってますよ。もう、嬉しくて(笑)。曲が出来てすぐ、次のライヴかなんかでいきなりやった。でもねえ、メンバーみんなが飢えすぎて合わないんだよ。〈ウワーッ〉つって気合いが先走りすぎて(笑)」
―― メンバーも観客も我慢できない(笑)。新作では“ジェット サティスファクション”が1曲目で、次が“ビルディングZ”。〈ビルディングが空を飛ぶ〉っていう最初のフレーズにスゴくロック的な〈絵〉を感じるんですけど、沢田研二の“TOKIO”(〈TOKIOが空を飛ぶ〉)を思い出したりもしました。
「ああ、“TOKIO”は大好きな曲なんで、もちろんインスパイアされてるだろうけど、あっちはもうちょっと夢がある。光の泡のなかで恋人たちが狂うみたいな。この曲は街を歩いてて、〈なんかビルが多いなあ〉って思ってさ。飛んでぶつかってなくなんないかなと(笑)」
――災害版“TOKIO”(笑)。
「あと〈マジンガーZ〉的。〈Z〉は〈マジンガーZ〉の〈Z〉です」
――どおりで〈ゼーット!〉っていうシャウトは水木一郎っぽい。
「あ、それは頭になかったけど、いいかもね、それ(笑)」
歌うまではいろいろ抵抗がある
――せっかくなので全曲のエピソードを伺いたいんですが、“エジプトロック”はなぜエジプトだったんですか?
「10 年くらい前から、エジプトでライヴをやりたいって思ってるんだよね。昔、初めてヨーロッパにツアーに行った時に、スイスで会ったプロモーターが〈オレ、エジプトでライヴやったことあるんだ〉とか言っててさ、〈オレもやりたい!〉って思ったんだよ。それから10数年経つんだけど、その気持ちがついに歌になった。近い将来、エジプトで黒いマントのおネエちゃんと恋をした時のために(笑)」
――ギターウルフとエジプト、相性良さそうですね。
「『ライヴ・アット・エジプト』っていうアルバムを出したいんだよ。ジャケットはもちろんピラミッド。ピラミッドの前で3人が革ジャンを着てラクダに乗ってて、ラクダには〈KAWASAKI〉ってやつ(バイクのエンブレム)をピシッと付けておく(笑)。裏ジャケは白いテントがあって、アラブの大富豪とかがデッカい座布団に座ってる前で、オレたちがダーッとなんかやってる。ジャケのイメージはあるんで、そろそろ実現したほうがいいなと思ってるんだけどね。一人でエジプト行って、ライヴができそうなところを探そうかって本気で思ってる」
――間奏のギターが、ちょっとサーフっぽというか。
「そうだね、まあ〈サイケデリック・中近東・サーフ・ガレージ〉(笑)」
――途中で入るセイジさんのシャウトも印象的です。
「砂漠の砂嵐が人の顔になってウワ~ッと動いたような感じ」
――映画「ハムナプトラ」みたいな?
「そうそう」
――“ワイルドレストラン”はどんなイメージで作ったんですか?
「最初は〈ロッキー・ホラー・ショー〉みたいな感じかな。主役がいて、エレベーターでドーッと降りてくる。そういうイメージで始めたけど、出来た曲はロマンティックなお兄ちゃんの話というか。男だったら誰でも必ずそういうのがあると思うんだけど、いちばん言いたいのはここだよね、(歌詞を指さして)〈星の下のワイルドレストラン 二人の夜はフライパンの上で ジュウ ジュウ 熱く 熱く熱く〉。こっちは星の上から見てる感じ。夜の東京を見下ろして、灯りがついているところにはいろんなドラマが繰り広げられているんだなあって」
――曲のなかには〈カレーライス〉〈スパゲッティ〉〈ステーキ〉〈ジャンバラヤ〉といろんなメニューが出てきますが、これはセイジさんの好物だったりするんですか?
「まあね。ほんとは親子丼も好きなんだけど、〈親子丼〉って歌うとちょっとカッコ悪いなと思って(笑)。でも、メニューを歌詞に入れるのは少しだけ気合いがいる作業だった。一歩間違えるとギャグになってしまう(笑)。笑えるかもしれないけどロックとか、そのへんの瀬戸際みたいなところでどうしようかなと思って」
――セイジさんの言葉のセンスって独特というか、ロック的ダイナミズムを感じさせるんですけど、最後の曲名“デビルクチビル”もインパクトありますね。思わず口に出してしまいたくなる語感。
「それは結構前からアイデアを考えてて。最初、〈クチビル悪魔〉というタイトルだったんだけど、それは誰でも考えそうだよなと思って。ちょっとオレが作るもんじゃないなと。〈クチビルデビル〉も誰かが考えるようなタイトルだな、と思った時に〈デビル〉と〈クチビル〉がパカッと入れ替わって〈あ、これ!〉と思った。これはオレのもんだと。で、バッと歌詞を書いた」
――この曲って前半の1番、2番が男目線の歌詞で、後半の3番、4番が女性目線の歌詞ですよね。女性目線の歌詞は初めてだと思うのですが、書いてみてどうでした?
「なかなかできなかった。最初はちょっと恥ずかしくてね(笑)」
――歌詞に出てくる女性はいかにもヴァンプ(悪女)っぽい感じですが、セイジさんのなかではどんなイメージだったんですか?
「まあ、そんな感じかな。ブリジッド・バルドーみたいな。こう、細い煙草をふかしてて、フランス映画っぽい雰囲気で」
――間奏のギター・ソロがブルージーですが、ブルースを意識したところはあるんですか?
「そうなのかもしれないけど、あの間奏は男女の心の呻きというか……。ま、それを弾くことをブルースと言うけど、男の呻きと女の呻き、そっちを考えたほうが先ですね」
――男女の掛け合いを歌うのって、やっぱりいつもとはノリが違うもんなんですか?
「さっきも言ったけど、やっぱり男のオレが女のセリフを言っていいのかなあ、ってのがあってさ。曲が出来てしまえば何の問題もないんだけど、歌うまでいろいろ抵抗があって。それを解き放つ瞬間に、エンディングまでスパーッといく」
最終的には気合いと勇気
――今回もそういう〈抵抗〉がいろいろあったんですか?
「今回のアルバムでいくと、“ビルディング Z”“エジプトロック”“デビルクチビル”、この3曲がものすごく自分には抵抗があったんだけど、抵抗があるものというのは毒を持っているものなので、結局、いつも最後には曲のほうに気持ちが傾きますね。やっぱ、オレしか書かないような曲ってのをいつもめざしてるんで。それは何かというと、自分も恥ずかしがるような自分の毒であったりするから」
――なるほど。例えば“ビルディング Z”だったら、どういうところに抵抗を感じたんですか?
「〈ビルディングが空を飛ぶ〉なんて歌うのはなぜか?って最初は思うさ、一瞬(笑)。〈この設定ってなんか変だよな〉と思いながらも、変だということは、それが自分の毒だということもよくわかっているから歌うんだけどね。“ラーメン深夜3時”っていう曲を作った時も、最初は〈ロックでラーメンって、どうなんだろう?〉みたいな(笑)。“新幹線ハイテンション”とかもそうだったけど。まあ、曲っていうのは最終的には気合いと勇気なんだと思う」
――僕はてっきり、そういう強烈なフレーズが出てきた時点で、セイジさん的に〈勝った!〉みたいな感じかと思ってたんですが。
「それも少しはあるけど、でも〈ほんとにカッコイイのか?〉って思う瞬間はいっぱいあるよ」
――その迷いを克服していくわけですね。
「それを自分のなかで〈カッコイイもの〉にしていくんだよ。歌詞を書きながら、そいつのカッコイイところを見つけていく」
――そういった過程で、自分がカッコイイと思っているものに対する発見があったりもするんでしょうか?
「そうだね、確かに。曲を作っていくと新しい自分が見えてくるんで。無から曲を生み出すってことはかなり大変なこともあるけど、でも出来てしまうとやっぱ嬉しいね。“エジプトロック”とかは〈ああ、こういう歌詞が書けた〉とか〈こういうところにカッコよさを感じることができるんだ〉とか、そういうことが嬉しくて。だから、“デビルクチビル”で女の歌詞を歌えたことも嬉しいです」
ギターウルフに変身するような感覚
――そういえば、最初のほうで「新しい感じの曲を作れた気がする」って言ってたじゃないですか。それって久し振りのレコーディングだったことも関係しているんでしょうか。
「いや、そういうのはとくに意識してないですね」
――ではセイジさんにとって、休養をとった1年というのはどんな年だったんですか?
「ギターウルフを始めて20年間経つわけだけど、毎日毎日、曲のこととか、そういうことにアンテナを張り巡らしてきて。なんか引っかかることねえかな? カッコいい曲できることねえかな? って、いつも思ってたんだけど、その1年はロックとかそういうことを全然考えなかった。ポカ~ッとしてた」
――セイジさんのなかでそういうことってありうるんですね、ロックとまったく縁がないって。
「いままではなかったね、そういうこと。だからこれまでできなかったこと、映画をいっぱい観たり、本をいっぱい読んだり、そういうことをしたらいろいろアイデアが生まれるかと思ったけど全然ダメだった(笑)。でも、入院っていう経験はけっこう良かったよ」
――どういうところが?
「病院でずーっとじーっとしてることとか、看護婦さんが優しかったりとか(笑)」
――看護婦さん重要ですね(笑)。ベッドでゆっくり本を読んだりしてたんですか?
「そう。みんなが当然のように読んでる太宰治とか芥川龍之介とか読んでみようと思って。読んだらおもしろかった。特に芥川龍之介がおもしろかったな。小学校や中学校の教科書に載ってたからちょっとは知ってたけど、ちゃんと読むのは初めてで。難解でわかりにくいのかと思ったら、すごいわかりやすかった。文章も切れ味が良くて素晴らしかったね」
――でも、そうやって休んだあと、音楽をやるためにテンションを上げていくのって大変じゃなかったですか?
「うん、まさしく。去年の11月ぐらい、まだオレがしっかり立てない時からスタジオに入ったの。で、いよいよ明日スタジオに入るっていう前の日の夜、寝る時に身体がゾクゾクゾクゾク。〈スリラー〉のヴィデオでマイケル・ジャクソンが狼になる時みたいに、いきなり動悸が激しくなってきて。なんか身体が獣に変わっていくような瞬間を味わった。〈明日からいよいよまたギターウルフにならなきゃいけない〉と思った瞬間に、いきなりそういうことが起きたんだよ。オレがギターウルフでいたってことは、こんなにもエネルギーを使うことだったのかとビックリしたね」
――勝手に身体が反応しちゃったわけですね。
「そうだね、勝手にゾクゾクゾクって。オレを待っている2人に対抗するだけのパワーを出そうと思ったら、それだけ大変なことになる。〈オレがギターウルフになるってことは、身体を変えなきゃいけないんだ〉ということが、その夜よくわかった」
――翌日は無事にスタジオに入れたんですか?
「うん、無事に。その夜に変身できたから(笑)」
――今年の4月には野音で復活ライヴも行われましたが、久しぶりのライヴの感想は?
「(観客に対して)素直に〈ありがとう〉って感じだった、感激したね」
――ライヴの前には不安もありました?
「まあ、多少は。でもほとんどなかったかな。もう始まったら客がどうだろうと関係なく必死こいてやるしかないですからね。そしたら客がウォーッて来てくれて、めちゃくちゃ嬉しかったよね」
――グッとくるものがあった?
「ありました、もちろん。いままでは結構〈客なんて〉みたいな、ちょっと突き放すような態度をとっていたこともあったような気がするけど。でも、あんなに一体感を感じられたライヴは久しくなかったね」
――それまでは、お客さんというより、自分自身と対決しているというような感じだったんですか?
「そうだね。そっちのほうが強かったかもしれない」
――12月から来年1月まで久しぶりのツアーが入っていますが、体調のほうはいかがですか?
「うん、絶好調です」
――では最後に復活ツアーに賭ける思いを。
「まあ、言えることは相変わらず〈気合い入れて全力でやる〉ってことだけでなんだけど。でも、新しい曲をツアーで、とくに“デビルクチビル”とか“エジプトロック”をみんなの前でやれるのを楽しみにしてます」
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